Vol.26 ドムス チェア
Vol.26
Vol.26 ドムス チェア
ドムス チェア

イルマリ・タピオヴァーラ

文:竹内優介(Laboratoryy) 編集:山田泰巨

イルマリ・タピオヴァーラの名をご存じでしょうか? 彼が1946年にデザインした「ドムス チェア」はフィンチェアの愛称で世界中で親しまれ、フィンランドデザインを世界に知らしめたひとりと言われています。昨今の北欧ブーム再燃も相まって当時製作されたオリジナルは入手困難な代物ですが、2010年にはアルテックから復刻販売され、気軽に入手できるようになりました。

発売当時はノックダウン方式を採用したことで輸送コストを抑えることに成功。アメリカやイギリスなど海外にも多く輸出され、高い評価を受けました。多目的な使い勝手のよさから、現在もあらゆる場所で使われ続けています。サイズはW580×D540×H790×SH445mm

1938年、ロンドンやパリでの経験を経たタピオヴァーラは、フィンランドの家具メーカー「ASKO」でアート部門長を務めます。しかし時代は第二次世界大戦に突入し、彼は限られた道具と資材で兵士のための施設や家具の製作を担当することになります。この経験がタピオヴァーラのデザイン理念に大きな影響を与えました。やがて彼はフィンランドのプリミティブな民族家具に惹かれながら、美しく、素朴で、それでいて合理的な量産家具のデザインを次々に生み出していくようになります。

「ドムス チェア」は、ヘルシンキの学生寮ドムスアカデミアのためにデザインされた椅子です。快適な座り心地を実現するため、積層合板を三次元に成形する技術を開発。立体的なカーブを描く座面はゆったりと広くとられており、背もたれも身体のラインに沿ってぴったりとフィットするように出来ています。さらに目を引くのが小さなアームレスト。肘置きとしてはもちろん、テーブルに椅子を引き寄せやすいという機能とともに、どこか親しみやすい印象も与えます。こうした細部が、量産家具にありがちな無機質でチープな印象を払拭し、ハンドクラフト的な温もりを覚えさせます。フィンランド特有の朴訥とした温かさ、素朴で気取らない魅力は、日常のシーンにすっと寄り添ってくれることでしょう。

小さな肘掛は、テーブルに椅子がコンパクト収まるほか、離着席しやすいメリットがあります。軽量でスタッキングもでき、利便性を高めています。

背と座に革を張ったモデルは、より快適性を高めます。板座か生地張り、革張り以外に木の仕上げも選べ、多くのバリエーションを揃えています。

Vol.26 ドムス チェア