アウグスト・トーネット
椅子の歴史を語る上で欠かせないメーカーがトーネット社です。1819年、無垢の木材を曲げる技術をどこよりも早く量産化させたミヒャエル・トーネットが創業。木工職人がすべてを手作りする従来の椅子に比べ、工業化による大幅な効率化で生産された椅子は世界各地に流通し、現在に至るまで多くの人々に愛用されています。現代家具の歴史はまさにトーネットの椅子からスタートしたと言えるでしょう。
ミヒャエルの跡を継いだ息子・アウグストは、曲木技術の改良でさらなるトーネットの世界展開を進めていきます。なかでも1871年発表の「209」は、ミヒャエルによる「214」と並ぶ名作として知られる椅子です。父のデザインした椅子の基本的構造に則りながら、アームレストを加えたことで快適さが増し、オーガニックな曲線美が一層映えます。
この優美な曲線を備えた「209」を、ル・コルビュジエ・チェアの愛称で知る人も多いかもしれません。建築家のル・コルビュジエは、1925年にパリで開催された「現代装飾・産業美術国際博覧会」のエスプリ・ヌーヴォー館、1927年のヴァイセンホーフ・ジードルンクで設計した住宅などで採用し、彼の空間を象徴する椅子ともなりました。このようなエスプリを感じさせる佇まいは、たとえばベッドルームのようにプライベートな空間の片隅を飾る椅子としても活躍します。一方、もともと事務作業用としてデザインされた椅子のためワークルームにも似合います。クラシカルな雰囲気を残しつつ、モダンでタイムレスに愛されてきたデザインは永遠の定番であり続けるでしょう。
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