南仏の小さな街は道路がきれいに整備されているとは限らず、所々に思わぬ段差も。そんな時はリフトモードが役に立つ。
シートに座ると意外に車高が高く、周りの景色が見やすいことに驚きます。座り心地もまるで自分用にあつらえたように収まりが良く、上質なレザーの肌触りも快適です。「コンフォート」「スポーツ」「トラック」の3 つの走りが選べるアクティブ・ダイナミクス・ハンドリング・モードで、「コンフォート」モードを選択。走り出しはごく普通のGT車といった雰囲気でエンジン音もかなり静かで、滑るような走り出し。雨量に応じて作動するワイパーはキレも良く、雨中のドライブでも視界にまったく問題なし。
峠道に入るまでドラギニャン、カラといった、まるで映画に出てくるような小さな街並みが続き目を楽しませます。しかしここは、道路整備が行きわたっていない南仏の田舎町。いたるところに段差が目につきます。そしてこの段差は、低車高車にとって大敵。そこで頼りになるのは、車高をリフトアップするリフトモードのスイッチです。これを事前に操作することでクルマは難なく段差をクリア。その後ある程度走っていけば、車高は自然に戻ります。その動作は車高調整が行われたことがわからないほどスムーズです。
ヴェルドン自然公園のカステラーヌやセネあたりは、湖や山を臨む風光明媚なエリアだが、道は蛇行を繰り返す。
ラ・マルトルにさしかかるあたりから穏やかな登りとなりますが、驚くのは路面からのショックを上手く吸収するサスペンションの効果です。ここから大きな段差はなくなっていきますが、小さな段差や舗装の継ぎ目は依然、いたるところに残ります。マクラーレンGTの「プロアクティブ2」サスペンションは、路面状況や運転者の挙動に合わせて電子制御してくれるもの。多少コンディションの悪い上り坂でもいたってスムースに難なく走り続けます。
下り坂になっても快適さは変わらない。身体が左右にほぼぶれることがないので、助手席に座っていても安心。
下り坂にさしかかると、カーブの多い道なので自然とブレーキを踏む機会も増えますが、スムーズなハンドリングは変わらず快適なまま。しかし最後にハイウェイに入ると、クルマはいままでと表情を変えます。音は静寂から獣の遠吠えのようなエンジン音に。制限速度ギリギリのスピードで走っているにもかかわらず、車体は60〜70㎞で走っている時よりもさらに安定。同乗したモータージャーナリストの金子浩久氏いわく、「アクセルを踏んでエンジンを回せば回すほど、音が研ぎ澄まされてくる。そして同時にパワーもみなぎってくる。これが、マクラーレンの精緻なV8エンジンの特徴です。とはいってもイタリアのライバルたちの派手な音に比べて、この車は抑制的。そこが英国車のマクラーレンらしいところでもあり、乗り心地を左右するところでもあります」とのこと。さすが、0-100km/h加速3.2秒、0-200km/h加速9.0秒、最高速度は326km/hのクルマの実力。こんなところが、スーパーカーのDNAをもつGTならではの特徴なのです。
「マクラーレンGT」で南仏の田舎道を駆け抜けて、ロングドライブを充分に楽しんだ今回。その快適さを体感して、実用的なマクラーレンもやはり魅力的、という結論に達しました。
GTをデザインしたマクラーレンのデザインディレクター、ロブ・メルビル氏.。新しいデザインだが、誰もが見てすぐマクラーレンだと分かるというところが課題だったとか。