東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第6回 ディーエス 3/DS 3
自由を問え。愛を問え。人生を問え。そのトリコロールを問え。エスプリで生き抜く系スタイル、DS!
昨年6月、DSがシトロエンから独立し、新たなブランドとして誕生しました。DSと聞くと思い出されるのは、シトロエン CXに乗ってたゼミ担当教授。ヘビースモーカーで、学生との議論を好み、専攻はフランスの国際政治学。自分の仕事とシトロエンをとことん愛していた。DSは2CVとともにシトロエンブランドを象徴する車種で、T型フォードやミニと並び自動車史上、最も重要と評される名車種のこと。CXはそんなDSの後継シリーズで独特の流線クーペフォルムと、ハイドロのサスペンションを受け継いでるシトロエン純血最後の車種(プジョーの資本が流入する前)だった。
遠っ! DS 3の話は!? という突っ込みを承知で話したのは、すべて分かちがたく、シトロエンやこのDSというブランドに関わった話だからなのだ。そもそもDSは当時では革新的(マニアック)だった前輪駆動を採用し、トレードマークになった油圧式のハイドロマチックを搭載。2CVもそうだけど、シトロエンはとにかく独創性と合理性を追求するがゆえに、世界のマーケット視点で見ると突きぬけて理解しがたいプロダクトを、まったく臆することなくガツンと送りだしてきていたのだ。
この姿勢はデカルトから始まり、ベルクソン、サルトル、デリダといった世界の哲学史をリードするフランスならではの、論理を徹底して追求する哲学的な姿勢だったんじゃないかって思うんだよね。そもそも議論好きで、論理を尽くし得られた結果に対して最大の敬意が払われる文化の中で、シトロエンの独創性と合理性を貫く姿勢は哲学的であり、とてもフランス的だったんじゃないか。少なくとも、我が恩師がシトロエンを愛した所以は、そこだったと思う。
ゆえにシトロエンとDSは、同じフランスでもプジョーやルノーとはまったく異なる自動車メーカーであると、強くこの場を借りて主張しておきたい。雑な分け方だけど、プジョー、ルノーはフランスの職人やインダストリーの世界で、シトロエンおよびDSは思想や文化の世界に存在している。シトロエンを指してアヴァンギャルド(前衛)とはよく言われてきたけど、決して前衛のための前衛ではなくて、議論のプロセスをはらんだ革新と崇高のブランドゆえにアヴァンギャルドなんだよね。ややこしくて申し訳ないけど(笑) だからこそ、今後DSはその本質を貫くブランドになっていくのかな、と。
プジョーの208とパワートレインを同じくするこのDS 3もまた、そんな“DSらしさ”にあふれてる。特に一個一個の造形やデザインに注視してもらいたい。インパネのスイッチの形状ひとつとっても理由があって、そこに議論のあとがにじみ出している。ちゃんとそうあるべき理由が言語化されているよね。登場してもう5年かな、一向に古びる印象がないよ。全然ハイドロじゃないけど、路面の入力を均しながらも繊細に伝えてくる足回りは最高だし、昔のカブリオレみたいにソフトシートが後方に折りたたまれている佇まいもぐっとくる(モノグラム柄あり)。この、まるっとした塊感もいい。新しく搭載された1.2リッター3気筒ターボの燃費もハンパなくいいし、そもそもWRC(世界ラリー選手権)に参戦してるモデルだからね。DS 3。剛性だって間違いない。
DS 3を選んだのはWRC参戦モデルって興味もあったけど、やっぱり今回のパリの悲劇と無関係なわけじゃない。エスプリがもつユーモアや知的明晰さってフランスを象徴するけど、ほかの文化圏からすると食えない西洋文化そのものだったりする。大嫌いだけど、大好きなフランスってよく言われるでしょ? ヨーロッパ内でさえそう。でもこんな時こそそのエスプリを強く支持したい。たとえばトリコロールを身につけるにしても、なぜかはちゃんと答えられるようにしたい。だからこそ、DSって気分なんだよね。
●エンジン形式:1.2リッター直列3気筒ターボ
●最高出力:110ps/ 5,500rpm
●最大トルク:205Nm/1,500rpm
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:¥3,040,000
問い合わせ先/シトロエン コール TEL:120-55-4016
http://ds3.citroen.jp