東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第61回 Bentley Flying Spur V8 S / ベントレー フライングスパー V8 S
SUVより“レディ”はいかが!? 最高にエレガントなベントレー フライングスパー V8 Sで世界の旅を。
「マーケットは大都市圏」というベントレー。全国で年間400台以上売れていて、東京で言えばその多くが港区など都心というのだから驚きだよね。ベントレーと言えば湾岸線の追い越し車線を、ボディもホイールも真っ黒なコンチネンタル GTがかっ飛んでいく印象が強くて、元気な富裕層が買うクルマのイメージだったのね(笑)。まぁ、下取りされて都心を出たコンチネンタル GTが、野生化したのを見かけただけだったのかもしれないけれど、とにかく意外だった。そもそも現行のコンチネンタル GTは、登場と同時にベントレーのマーケットを5倍の大きさにした超稼ぎ頭。街で目にするベントレーのほとんどがコンチネンタル GTだし、もうすぐ新型も出るしで、ここはひとつ、改めて知るベントレー フライングスパーの巻ですよ。
実は同じエンジン型式にして並べてみると、稼ぎ頭のコンチネンタル GTとセダンのフライングスパー、SUVのベンテイガの価格帯はほぼ同じ。V8は2000万円、W12は2500万円から。さらにフライングスパーとベンテイガは、購入する年齢層も40代後半とほぼ一緒。家族構成や使用用途もかなり似ている。結局のところベンテイガは、従来のフライングスパーの購買層と“モロかぶり”しているみたい。セダンよりSUV、は世の流れ。「まぁ、仕方ないね」と諦め気分でハンドルを握ったフライングスパーは、あら嫌だ。「いま一度、セダンに乗ろう!」と、俺に囁きかけてきたんだ。嗚呼、このフライングスパーには敬意を込めて、“レディ・スパー”と呼びたい気分なんだよね(笑)。
レディ・スパーはセダンとして、気高くも美しい。象徴しているのはリアオーバーハング(後輪と車体最後尾の距離)の長さで、しっかりとトランクルームの存在感を引き立たせることでクラシカルな品を保っている。もちろんセダンの法則にのっとってリアとサイドは命だし、プロポーションはボリュームがあって肉感的。そこが最高に素晴らしいとも言えるが、レディ・スパーの場合、もうひとつ踏み込んで、トランクを開けて荷物を出し入れしているオーナーをも、エレガントに見せてしまうんだ。そこにはもう、黒のワンピースを着たオードリー・ヘプバーンしか思い浮かばないぐらいの王道感さえ漂う。そして走りが、なによりも素晴らしいわけですよ。
足回りは猫足そのものでなめらかだし、心臓のV8ツインターボチャージャーはトルクフルで力強い。でも方向性として、至高のW12に行こうとしているより、西海岸的でもっとカジュアルなラグジュアリー性を指向しているよね、このV8 Sは。重厚感はなしに、アクセルを踏むと軽やかにトルクがついてくる感じ。北米マーケット好みの味つけだし、欧州の品のよさと北米の明快なキャラクターが走りにも表れている。で、室内空間はベンテイガや新型コンチネンタル GTと比べると、ひと世代前の感じは否めないんだけれど、レディ・スパーならありですよ。全然あり。
それは乗るにあたって、品位やマナーをきっちりと守るのがレディのよさであって、エレガントであることに、新しさは特別必要じゃないことを教えてくれる。エレガントは古びないよ。なんなら90歳のジャーナリスト、兼高かおるさんがどれだけエレガントかを語ってもいい(失礼)。実際、レディ・スパーで都心を走ってみると、ベントレーに何度も出くわした。でも全然気にならないどころか、むしろ優越感さえ感じるのがフライングスパーであり(ただし、ミュルザンヌは別)、極端な話、それがセダンのよさなんだと思う。4ドアだから、セダンなのではない。大人の品位を大切にするからこその、セダンなんだよ。SUVでは味わえない、この引き算の美学は、「私のレディに対抗できるかな? ふふふ」って感じですよ。
●エンジン:4.0ℓ V8ツインターボチャージド
●出力:528PS
●トルク:680Nm
●トランスミッション:8速AT
●車両価格:¥21,000,000(税込)~
問い合わせ先:ベントレーコール
TEL:0120-97-7797
www.bentleymotors.jp