原点回帰の自然吸気でウェルメイド!? 718 ケイマン...

東京車日記いっそこのままクルマれたい!

第119回 PORSCHE 718 CAYMAN GT4 / ポルシェ 718 ケイマン GT4

原点回帰の自然吸気でウェルメイド!? 718 ケイマン GT4は、ポルシェ自体を物語る。

構成・文:青木雄介

編集者。長距離で大型トレーラーを運転していたハードコア・ドライバー。フットボールとヒップホップとラリーが好きで、愛車は峠仕様の1992年製シボレー カマロ改。手に入れて11年、買い替え願望が片時も頭を離れたことはない。

GTシリーズのエントリーモデルとなる718 ケイマン GT4。

ポルシェ 718シリーズの水平対向6気筒エンジン搭載モデル、718 ケイマン GT4に試乗した。結論から言うと、自然吸気の水平対向6気筒エンジンを味わうためのポルシェだね。街乗りでは本性を現さない、難易度高めのポルシェ。3ペダル仕様だから自分で自分をレースモードに入れないといけないわけですよ(笑)。使いたいパワーバンドは3000回転から4000回転の間ぐらい。高速では5000回転から上なので、爆音と消費されるだろう燃料に罪悪感を覚えながら(笑)、右足をぐっと踏み込んでいく。踏み込めば、あら不思議。いつぞや目にしたオールドポルシェの幻影が立ち現れる。これはもしかして、いにしえのミッドシップ、ポルシェ 914の味わいなのか。

コンパクトなボディに、シャシーの強靭な剛性感と接地感を伴った重さがあって、自然極まりないステアリングフィールを実現している。轍は拾うし、よそ見は許されない緊張感の中でアクセルを踏み込むと、シャシーに力がみなぎり、6気筒エンジンの乾いたエグゾーストノートが響く。このサウンドとハンドルを両手でしっかりグリップして走る感覚、身をよじるようにして加速する感覚が、「これこそポルシェ」としか言いようのない感覚なわけ。そして中央のレブカウンターに刻まれたリミットは9000回転で、猛烈にそこに行き着きたい欲望が湧いてくる……。

6気筒自然吸気ならではの懐かしい感覚を取り戻していても、決してセンチメンタルじゃない。2020年の718シリーズのハイエンドにしてハードコアモデルとして君臨しているんだ。言うなれば有能すぎる音楽プロデューサーみたいなもので、ファレル・ウィリアムスとチャド・ヒューゴのザ・ネプチューンズみたいですよ(笑)。4カウントスタートでリスナーの耳を惹きつけ、懐かしくてもオールドスクールにはならない、歌い手やラッパーにとって完璧にチューニングされたトラックを提供する。

2020年代においても絶句させられるほどのセンスと、ミニマリズムのハードコア魂。ライバルをして「かなわんな」と舌を巻かせる力量は、積み重ねられた実績と信頼、つくり手とリスナーのハイコンテクストさにあるのだね。まぁ、ポルシェの歴史は、彼らのキャリアの3倍以上も長いわけだけどね(笑)。

ではなぜ、自然吸気の3ペダル仕様なのに懐古的ではないのか? その理由は最新のミッドシップポルシェとして、サーキットのラップタイムを本気で削りにきている姿勢にある。シャシーと足まわりは強化され、走行中の挙動に応じて車高や減衰力の調整を行うポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム(PASM)はもちろん、GT3譲りのエアロダイナミズムで武装。スーパーフラットなステアリングに、先代比で50%も向上した空力特性により、超高速域でも安定してアスファルトと大気の間を切り裂くようにして走る。

特にステアリングのフラットさは驚異的で、よっぽどのスピードで前加重のブレーキからコーナリングでもしないかぎり、オーバーもアンダーも出ない。徹底してハイスピードなサーキットを、グリップ走行で回るための仕様にこだわっているんだ。いま時、スイッチ類が一切付いていないハンドルで、見た目通りの自然体。まるでオールドポルシェを2020年にリファインし、新型として発売したようなウェルメイドな魅力にあふれているわけ。

1 / 3p