東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第95回 McLAREN 720S SPIDER /マクラーレン 720S スパイダー
もはやリアルにフォーミュラカー!? 優雅なハードコア、マクラーレンの720S スパイダーに乗って。
今回、マクラーレンのスーパーシリーズである720S スパイダーのステアリングを握った。まず感動したのは、マクラーレンたらしめるすべての特徴が、前回乗ったエントリーモデルの570S スパイダーにも完璧に備わっていたってことなんだ。カーボンモノコックによるバスタブ型シャシーの剛性感がもたらすハンドリングの素晴らしさや、車体との一体感。加速とともに姿勢を低くして路面と大気の間を切り裂いていくスーパーカーならではの挙動とか、570S スパイダーにも十分なほど備わっていて、まず話をそこから始めたいと思った。570S スパイダーはマクラーレンの本質を堪能できる。それは間違いないのね。
でも実際にディーラーで570S スパイダーと720S スパイダーが並んでいて、720S スパイダーに心が惹かれたなら絶対にそちらを選ぶべきだと思う。なぜなら両者の違いは、デザインがすべてを物語っているからなんだ。大胆かつハイエンド、それでいてリアフェイスのど真ん中にエキゾーストエンドを配置するようなぶっ飛んだ720S スパイダーのスタイリングは、このクルマのアイデンティティを完璧に表現している。
それゆえアフターチューンで馬力とトルクをそれぞれ200ずつ上げたとしても、570S スパイダーは720S スパイダーになりえないし、720S スパイダーのデザインとキャラクターとの調和には似ても似つかないなにがしかになるはず。言い換えれば、マクラーレンは車種ごとに演奏するユニットが決まっていて、メンバーを変えると破綻してしまうほどの完成度がそもそも備わっていると言えるのかも。
だから「その違いはなにか」と問われれば、同じ曲を演奏してもユニットが変われば「まるで違う曲のように聴こえる」という感覚に近い。たとえば出だしから720S スパイダーはエキゾーストノートが陰影に富んでいて、低速では不機嫌さを隠さない。570S スパイダーは低速、中速、高速に至る一連の流れにシームレスな「乗りやすさ」という通奏低音があるけど、720S スパイダーは中速から高速、超高速域で速度とともに本性を現す。でもライバルのように、速度とともに「もっと踏め」と好戦的になるのとも、高い回転数を保ちながら官能的なタナトスの世界へ誘われるのとも違っている。