東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第115回 JAGUAR F-TYPE R-DYNAMIC CONVERTIBLE P300 / ジャガー Fタイプ Rダイナミック コンバーチブル P300
バッド・ガイは“ジャガー”をこよなく愛す!? 新型Fタイプが掲げる、オンリーワンの魅力とは。
Fタイプといえば7年前、ジャガーが再びスポーツカーメーカーとして復活の狼煙を上げた記念すべきスポーツクーペ。高い剛性を誇るアルミ製シャシーのフラッグシップモデルには、はち切れんばかりのパワーを備えた5リットルのスーパーチャージャー付きV8エンジンを搭載していた。マッシブで肉感的なスタイリングは伊達じゃない、骨太なスポーツカー。その肉食獣のような色気を、ジャガー自身も十分理解していたはず。
ジャガーはFタイプを発売してまもなく、毎年自動車メーカーのCMが注目されるアメリカのスーパーボウルでキャンペーンを行った。マーク・ストロングを筆頭に英国出身の男性悪役俳優たちを起用した、「グッド・トゥ・ビー・バッド(ワルになるのも楽しいぜ)」という趣旨だった。これってすごくハイコンテクストな表現で(笑)、アメリカ映画における英国とは往々にして悪者のイメージが強い――。だったらいっそ英国車を代表するジャガーのFタイプで、不良の魅力を存分に味わおうという内容だったんだ。
つまりジャガーが、自らの不良性を認識した記念すべきキャンペーンだったのね(笑)。はいはい、ジャガーは不良のクルマ。「そんなことはもちろん知ってるよ」と相好を崩す愛好家の諸兄はさておき、たとえばビリー・アイリッシュの大ヒット曲「バッド・ガイ」は、女性が普通に自分のことをバッド・ガイと呼ぶ感覚が話題になった。もしいまジャガーが同じコンセプトのCMをつくるとして、再び男性だらけのCMをつくるかと言えば、かなり疑問だよね。
だいぶ前置きが長くなったけど(笑)、中身はそのままにフロントフェイスを一新し、マイナーチェンジを図ったのがこの新型Fタイプ。そんな7年の月日を痛感させるかのように、見違えて格好よくなった。アップデートされた英国流の不良性を手に入れている、というわけですよ。
クラムシェル型のボンネットでしかありえない造形美に、細く鋭い目つき。もともとグラマラスな曲線をもったボディを、フロントフェイスの変更だけでまったく違うクルマに変えてきた。そもそもクラムシェル型ボンネットでは、同じ英国車のアストンマーティンがDB11で成功しているでしょ。それゆえ、既に英国的なデザインとして感じられるのが小憎らしい(笑)。ザ・ビートルズがマッシュルームカットで一世を風靡すれば、ザ・ローリング・ストーンズ(ブライアン・ジョーンズ)だってマッシュルームカットにする英国的シンクロニシティ(笑)。ザ・ローリング・ストーンズついでに言うと、「俺のジャガーはミック・ジャガー」というパンチラインだって、新型Fタイプに関してはアリでしょう(笑)。若い頃のミック・ジャガーって中性的な不良のイメージだったし。なんてね。あははは!
なによりフロントフェイスの変更だけで、ほぼ同じ中身のクルマをまったく違う印象につくり変えて売り出すのは、不良の所業ですよ(笑)。前モデルでは筋肉質でワイルドな印象があったけど、新型では自らの曲線を誇るかのようなエレガントなプロポーションに変貌し、ほぼ正反対のイメージのスポーツカーにしてしまった。この一連の企みを、こともなげにやり遂げるのが格好いいし、洒落が効いている。「乗り手を選ばない」という意味では、オープンな意志も感じるよね。