東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第84回 McLAREN 570S SPIDER/ マクラーレン 570S スパイダー
“ワークスのアイツ”にだけは負けられない⁉ 570Sに秘められた、マクラーレンの意志とは。
マクラーレンはニキ・ラウダやアイルトン・セナといった伝説的なドライバーとともに、フォーミュラ1の名門コンストラクターとして広く知られている。今年で設立10周年を迎える市販車部門のマクラーレン・オートモーティブは、日本でも着実にシェアを広げ、スーパーカーの主要メーカーとして存在感を高めてきている。実際、周りから「マクラーレンってどんなクルマですか?」と聞かれることも多い。
それもあって今回、初めてマクラーレンのステアリングを握ってみた。車種は570S スパイダー。570Sはエントリーモデルとされているけど、実感から言うと、同じマクラーレンでこの上のモデルが想像できないぐらい速く、乗りやすいスーパーカーだったんだ。マクラーレンはF1の理想を市販車で追求しているメーカーということもわかった。徹底的に車体を軽量化し、頑丈で剛性の高いシャシーをつくり、空気抵抗を極限まで抑える。そして車体の真ん中にドンとハイパワーエンジンを載せる。このシンプルな思想を、エンジニアリングで丹念に押し広げるようにして市販車にするのがマクラーレンのクルマづくりなんだな。
570S スパイダーは1.4tを切る車重(乾燥重量)に、F1マシンのノウハウが注ぎ込まれたカーボンファイバー製モノコックのシャシー、モノセルⅡを採用している。この80kgにも満たない、頑強極まりないバスタブ型のシャシーが魅力の中心にあるんだ。シャシーの魅力って見た目にはわかりにくいけど、あえて言うなら“骨のあるオトコ”の魅力って感じ。
F1の世界観を再現した、公道を走るスーパーカー
たとえばサッカーで言うと、昨年のJリーグMVPに輝いた川崎フロンターレの家長昭博や、引退した鹿島アントラーズのレジェンド、小笠原満男がまさに“骨のあるプレイヤー”だと思う。決して大柄で屈強な肉体をもち合わせているわけではないのに、そのプレイはとびきり強くて正確なんだ。彼らの骨格やインナーマッスルは知る由もないけど(笑)、570S スパイダーのモノセルⅡは、その強靭でキレのある走りを内側で支えているわけ。
首都高はもちろん箱根まで400kmほど走ってみたけど、ステアリングを切りながらいくらでもアクセルを踏み込んでいけるような驚異的な安定感は、マクラーレンをそうたらしめるいちばん大きな要素だったね。「もっとアクセルを」とあおる手合いでもない。マクラーレンの運転席に座ることは、クルマ全体に神経を通わせるプラグを差し込んで、自分の身体を車体にインストールするイメージなんだ。