東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第126回 ASTON MARTIN DBX / アストンマーティン DBX
ダニエル・クレイグの帰りを待つのはDBX !? アストンマーティン初のSUVに見る、英国車の美学。
アストンマーティン初のSUVとなるDBX。高速道路を中心に600㎞ほど乗った結論から言うと、これだけ色気のあるSUVは見当たらない、ということに尽きる。色気にも種類があるけれど、スポーツ性能の高さや、知性や寛容性といった大人がこうあるべきという理想のキャラクターをDBXはすべてもっていて、懐の深さを感じさせるのね。
稀代のリーダーシップを発揮した英国首相、ウィンストン・チャーチルばりの鉄の意志に英国的な慎み深さを重ね合わせれば、アストンマーティンになるって寸法なんだけど(笑)、DBXは「SUVをつくるならこれしかない」という、あまりにもアストンマーティンな1台なんだ。
「それってジェームス・ボンドでは!?」と決めつけるのはやや性急で(笑)、彼はやっぱりパートナーファーストなスポーツクーペ、DB11かなとも思うわけ(笑)。DB11はアストンマーティンの顔としての華があるし、英国のみならず世界を救うヒーローがさりげなく乗るスポーツクーペで異論なし。でもたとえば、「普段のダニエル・クレイグがDBXに乗るとしたら?」と考えると、とたんにDBXはしっくりくるんだ。うむ。ジェームス・ボンドという大役を演じ終えたダニエル・クレイグを迎える相棒として(公開が延期に次ぐ延期で撮り直しも噂されているけどね)、DBX以上にふさわしいクルマはない。
アストンマーティンには美学がある。マイアミのラッパーで随一のクルマ好きとして知られるリック・ロスはその美学を自分の生き方に重ね、「アストンマーティン・ミュージック」という名曲をつくったぐらいですよ(笑)。懐の深さと慎み深さ、このふたつの美学が混じり合う濃厚なバランスこそが、アストンマーティンの現在地を更新し続ける。DBXは、SUVという非常に難易度の高い車型に挑戦しつつも、十八番であるスポーツクーペ、DB11の完成度を超えてきたと感じられたんだ。
まず基本となる走行モードのGTモードが、その名の通りのグランドツアラー。AMG製の4リッターV8エンジンをハミングさせ、路面入力を静かに優しくいなしていく。広くとられた視界に、低速のクルージングでこそ極上の乗り味を発揮するDBXのGTモード。大人の嗜みとしてのGTカー、その真骨頂であり、まさに「アストンマーティン・ミュージック」ですよ。