東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第125回 TOYOTA GR YARIS RZ “HIGH PERFORMANCE” /トヨタ GRヤリス RZ “ハイパフォーマンス”
春夏秋冬を全開で駆けるオールラウンダー、トヨタ GRヤリスが挑む「公道最速」への戦い。
トヨタの豊田章男社長はGRヤリスを「世界で勝つためのクルマ」と位置づけた。未舗装路や雪道も含む「公道最速」を競う世界ラリー選手権(WRC)に参戦するWRカーは、メーカーが市販しているモデルでなければならない。これを「ホモロゲーションモデル」といい、その中身は、エンジンはもちろん駆動方式も変更して参戦することが可能なのね。
街角を走っている普通のコンパクトカーを、まったくの別のモンスターに変えられる「なんでもアリ」な参戦規定。とはいえ、それもここ25年ぐらいの話で、もともと参戦するクルマは市販されるモデルに近いグループAがWRCのトップカテゴリーだったんだ。
つまりラリーで勝つなら、ベースとなる市販車が速くなければいけない。これがラリー界の鉄則だった。そしてこのGR ヤリスこそが、国産としてはご無沙汰だった、ラリーで勝つための新型車なんだ。正確に言うと、次のホモロゲーションモデルになるために生まれたクルマといえる。日本名のヴィッツを欧州名のヤリスに変えたのだって、公道最速にフォーカスしたGRヤリスを販売するためだったに違いない。
そもそもラリーで勝てる3ドアハッチバックはお世辞にだって、この時代に売れる車型とは言えない。だったら号令直下、カワイイ「ViVi」ヴィッツから、「ヤリスぎ」ヤリスへと「ヴァイヴス変えよう」って感じですよ(笑)。
公道最速である理由とはなにか? グラベル(未舗装路)やアイスといったあらゆる路面を駆け抜けるのに4輪駆動であることと、車型をコンパクトにしつつ、短いホイールベースながらもできるだけ4隅にタイヤを配置すること。その上でアンダーステアを発生させないように設計されたGRヤリスは、ラリーが進化してきた歴史の先端にいるんだな。
乗れば一発でそれが実感できるのね。直線やカーブでアクセルを踏み込んだ時に、安定を損なわないミニマム構造で、ドライバーの視座を下げすぎず、ある程度の高さで保ち、車体全体を把握させる。それによってセンチメートル単位のシビアなライントレースも可能になる。車体を滑らせず、速度を落とさず、路面を強力にグリップしたまま最短距離でタイムを切り詰める、グリップ走行のためのクルマなんだ。
走行モードを「トラック」にすると本領発揮。気分は、まるでセバスチャン・オジェですよ(笑)。前人未踏のラリー・モンテカルロ6連覇を成し遂げ、つい先日も7度目の制覇を達成した王者のごとく、モンテカルロよろしくウエットでもアイスでもなんでもござれなオールラウンダー。前後のトルク配分が50:50になり、4輪で食らいつくように路面を捉え、きわどいS字もインのギリギリを安心して攻めることができる。いまどきにしてはちょっと重めのステアリングで、コーナーを脱出する時は常に全開の傑作ホットハッチ。トヨタの「まず素性のいいスポーツカーをつくる」って思いも全開なワケ(笑)