東京車日記いっそこのままクルマれたい!
第123回 ROLLS-ROYCE GHOST / ロールス・ロイス ゴースト
ロールス・ロイスが“次元の違い”を見せつける⁉ 新型ゴーストの卓越性は、共鳴周波数への執念にある。
ロールス・ロイスが「そのエッセンスを追求した」と主張する、新型ゴースト。乗った結論からいうと、それ以上の高みに達したと言えるはず。ランタンの炎が馬車の輪郭を明らかにするように、新生ゴーストは再びその姿を現し、我々の度肝を抜いたという感じ。ファントムと並んで、現世で体験しうるおそらく最高のサルーンだし、ロールス・ロイスは自身に課せられた高いタスクを、完全に越えてきたんだ。
まず乗り出し価格が3500万円を越えるにしろ、それが高すぎるとは決して感じさせないつくりに、ロールス・ロイスはなぜロールス・ロイスなのかと考え込まざるを得なかった。ステアリングを握ったのが1カ月前で、トータル2時間に満たない試乗時間にもかかわらず、クルマへの認識を改めなければいけない「アイデンティティの危機」みたいな、あの体験が忘れられないんだな(笑)。
無重力を表現したかったという、エフォートレスドアの開き心地からして次元が違っていた。そして運転席に身体をすべりこませ、クルマを走り出させた瞬間に「ヤバい」と直感させられるのね(笑)。アクセルを踏んだ一瞬のうちにして、にじみ出るようなトルクは、分厚いのに粒立ちがはっきりしていて洗練されている。やや細身のステアリングは路面との一体感を生み出しているんだけど、手に伝わる感覚はまるで筋肉のような有機物に触れている感じがするんだ。深奥に骨格があって、地面につながっているイメージが手のひらだけで理解できる。むろんステアリングは正確で、よく調律された楽器のように扱いやすい。
そのドライビングを音楽でたとえると、ベントレーのミュルザンヌでいえば、クラシックであり弦楽器の荘厳な多重奏なんだけど、ゴーストはもっと原初的で言葉が生み出される以前の音や、リズムで意志を伝えてくる感覚に近いのね。あえて自分の音楽体験の中から近い感覚を挙げるとすれば、ジャズピアニストであるキース・ジャレットの実験的な名曲「デス&ザ・フラワー」を聴いた時のような衝撃(笑)。原初の音世界に没入していく、静寂にも輝きや色彩を与えるような、現代的な音の解釈がなされたエレガンス。そこにデガダンスもなければ、オカルトもないのね(笑)。