『Pen』1/1・15 新年合併号の発売についてのお知らせ
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クルマの魅力は、ひと口には語れないものだ。特にデザインという視点はやはり奥深く、見るアングルや深さでその映り方がまるで変わってくる。8年ぶりのフルモデルチェンジとなった 「新型 Audi A3」は落ち着いた佇まいの中に、アウディのデザイン哲学が細部にまで宿る。
今回、その新型 Audi A3のもとに集結したのは、プロダクトデザイナーの横関亮太、アーティストの舘鼻則孝、建築家の岡野道子の3人。アウディの最新のデザイン言語が凝縮されたこのクルマを通し、互いの考えや哲学を語り合うスペシャルトークセッションでは、新型 Audi A3をインスピレーションにして持ち寄ったアイデアスケッチも披露。 異なるフィールドで活躍する彼らの目に、そのデザインはどう映ったのか。そして、彼らが語ったデザインの未来とは。
「体験がどうあるべきか、そこから逆算してプロダクトをデザインする。そうして出来上がったものこそが美しさを伴っているのだと僕は考えています」と自身のデザインスタイルを語るのは、家電から生活雑貨まで、幅広いプロダクトのデザインを手がける横関。「進化」とひとくちに言ってもさまざまな進化の仕方がある。プロダクトデザイナーとしての彼の目は、新型Audi A3の新たなデザインに、表面的ではなく、より本質的な進化を見たようだ。
「これまでのアウディのデザインと比較して、すべてを一からつくり直すのではなく、いい部分を残しつつも各所で小さな革新を起こすことで、全体としてバランスよく進化している。単に進化するのではなく、どう進化すべきなのかを指し示すことができるのが、デザインにできることのひとつ。今回の新型 Audi A3にはデザインがもつ本質的な力が感じられ、自分自身の仕事のヒントにもなりました」と嬉しそうに語る。
「進化って実は人間の本能に近いもの。でないと、こんなにもあらゆるものを常によくしようとしたり、新しくしようとすることはできない」と語る横関は、自身が担うであろうこれからのデザインのあり方について次のような考えを示した。
「デザインにできることのひとつは、どう前に進むべきかという道を示すこと。進み方は5年10年先を見据えたじっくりとしたものでもいい。アウディはその中で、ひとつの進化の見本を見せてくれていると感じます」異なるフィールドのクリエイターとの今回のトークセッションが、彼のモノづくりへの意欲をさらに大きく、強くしたことは間違いないだろう。
新型Audi A3が停まった会場でひと際目を引いたのは、舘鼻の作品たちだ。レディー・ガガが愛用したことで知られるヒールレスシューズをはじめ、彼のアートには伝統工芸ならではの佇まいと現代アートのもつテーマ性の両方が感じられる。
「たとえばお店でモノを見た時、それがどんな背景で、どうつくられたかがもっと可視化されたらいいのに、と感じることが少なくない。この新型Audi A3もいろんな専門分野のつくり手が関わっている。そういうストーリーが伝わることで、モノやデザインの見え方はもっと変わっていくのではないか」と語る舘鼻は、さまざまな技術を継ぐ職人たちを巻き込みながら制作することも多いという。
美しさか、それとも機能性か。モビリティのデザインにおいても、長らく議論されてきた問いに対して「アートはある意味、美しいということ自体が機能として求められているものだったりする。それはアートの面白いところのひとつ」とアーティストならではの鋭い視点で自身の考えを述べる。
「使いやすさ」がよりシビアに求められるプロダクトデザイナー、そして空間を手がける建築家とはまったく違うアングルからの考えに、他のふたりが思わず驚きながら頷く瞬間も。トークセッションはしだいにスケールが膨らみ、テーマはモビリティの未来へ。
舘鼻は自身の考えを「個人的な思い」と断りながらも、「これからはどこでもオンラインでつながり、境界線がなくなっていく時代。自分だけの聖域がどんどん奪われていく時代になると、クルマというものは、単なる移動のツールとしてだけでなく、より独立したプライベート空間としてひと際高い価値をもっていくのではないか」とモビリティの未来を思い描いていた。機能性や快適性だけではなく、そこにあることで生まれる自分と向き合う時間、その創出こそが、彼のモノづくりの根底にあるテーマなのかもしれない。
コミュニティとのつながりを大切にする建築家の岡野は、自身のこれまでの家づくりの経験を通して、新しい時代のモノづくりについて語る。「たとえば一緒に壁を塗る。床材のタイル張りを一緒に手伝ってもらう。それだけで、単に与えられたものを使うという使い手としての意識と少し変わり、『これは私のつくった家だ』と愛着をもってもらえるケースが多いんです」
つくり手と使い手という一方的なコミュニケーションではなく、一緒につくるというスタンスが少しでもあるだけで、つくり方も、その後の使われ方にも大きな変化があるという。「これからの時代は、デザインするプロセスに人を巻きこんで、一緒にものごとをつくっていく。そんなモノづくりが求められていくのでは」という彼女の言葉に、横関、館鼻のふたりも納得の表情を浮かべていた。
新型Audi A3の最新テクノロジーとドライバーを中心に設計されたデザインの融合を実際に肌で感じた3人は、さらに、デザインという概念の「進化」について語り合う。新型Audi A3について、引きで見ても寄りで見てもデザイン的な魅力があると、そのスポーティなフォルムの進化にすっかり惚れこんだ横関。その様子を見て、岡野は「進化って、数字だけでは表現できない。その奥にアイデアや、機能に裏づけされた工夫があるからこそのもの」と、デザインの進化について自身の考えを述べた。
「まさにクルマは動く居住空間。見た目やフォルムの印象とともに、その中の空間をどうカタチづくるかということはクルマも建築も同じで、とても共感できます」と話し、自身の手がける住居の設計と、アウディの空間デザインへのこだわりに共通点を見出すことで、新たなインスピレーションを得た。使う人からのフィードバックを受けることで、よりよい設計につなげていく。岡野のモノづくりへの柔軟な姿勢が窺える瞬間だった。
クルマ×プロダクトデザイン、建築、 アート。かつてない出合いから生まれたアイデアとは
クルマとは異なるフィールドで活躍する彼らは、新型Audi A3のデザインをどう解釈したのか。そのイメージを言葉ではなく、まさにそれぞれの「デザイン」で表現したとしたら? そんな難しい課題にも3人は快く応じてくれた。
横関が披露したのは、既にプロトタイプのレベルにまでCGで落とし込まれた一枚。エアインテークやシングルフレームグリルをモチーフにしたフラワーベースは、ボディの端材を再利用することでサステイナビリティにも配慮した作品。
舘鼻は代表作のヒールレスシューズのフォルムに、新型Audi A3の立体的なフォルムから得たファーストインプレッションを見事に反映させた。
事前に新型Audi A3を試乗していた岡野は、特に印象深かった加速の心地よさからインスパイアされたという、多重螺旋の住宅建築を提案。クルマやクルマ以外のモビリティのための導線と居住空間がスパイラルで構成される、未来感あふれる建築デザインに驚きの声が上がった。
クルマ×プロダクト、クルマ×建築、クルマ×アート、クルマ×建築、とクロスジャンルと呼ぶにふさわしいこれらのアイデアに、デザインのさらなる可能性やその進化の行く末が示唆されているのではないだろうか。
トークセッションを終え、3人は改めて新型 Audi A3のデザインを見つめながら車内に乗り込み、ハンドルを握った。「離れて見た時のシルエット自体はミニマルなデザインだけど、近くで見ると細部のこだわりが感じられる。そんなシャープな印象がある。このコントラスト自体が非常に魅力的」と語る舘鼻。ディテールと全体感、そのバランスをどこまでも追い求めるアーティストならではの視点が垣間見えてくる。
人の生活に寄り添うさまざまなプロダクトデザインを手がける横関も「コンパクトだけどシャープなラインがあり、そのことでエレガントさが高まっている。近くで見ると面のうねりにメタリックのグラデーションのブルーが映えていて、とても美しいですね」と目を輝かせる。
アウディのデザイン哲学のひとつである「Human Centric」を体感するべく、岡野は運転席に乗り込む。「モニターや操作パネル全体が、運転席側に少し傾いている。これはストレスなく操作できそう」
子どもの送り迎えで日常的にクルマを運転する機会も多いと話す彼女も、人を中心に考えられたデザインが体現された心地よい空間を満喫。後部座席に再び乗り込んだ舘鼻も、「素材の扱い方にコントラストがあって、優雅さを引き立てているのがわかります」とディテールの質感を確かめていた。
カーデザインは往々にして、表面的な造形だけに注目が集まり、語られてしまうことが多い。しかし、今回の3人のトークセッションは新鮮な発見にあふれており、プロダクトデザインや建築、アートなどの異なる視点からクルマを見つめることで、この社会をより豊かで彩りある日々へと連れていくためのさまざまな可能性が感じられるものとなった。
おそらくアウディ自身も、社会に価値を提供するブランドの使命として、いまを生きる人々の日々の生活にしっかりとした眼差しを向けているからこそ、その考えを今回の新型 Audi A3のデザインに落とし込むことができたのだろう。
そして、見た目のデザインだけでなく、ドライバーやそこに乗る人々の暮らし、ひいては社会全体のデザインまでを見据えて進化をしていくのだという意気込みを、3人はそのデザインの奥に見て取ったのではないだろうか。まさにデザインの未来に光が感じられる、価値あるトークセッションとなった。
横関亮太(よこぜき・りょうた)●1985年、岐阜県生まれ。プロダクトデザインとクリエイティブディレクションを軸に、家電製品や家具、生活用品、アートにいたるまで、国内外のさまざまなプロジェクトを手がける。ライフスタイルの広がりに合わせた「体験価値を高める」ことを前提としたモノづくりを得意としている。www.ryotayokozeki.net
舘鼻則孝(たてはな・のりたか)●1985年、東京都生まれ。日本の古典的な染色技法や伝統文化にインスパイアされた作品を中心に、多岐のジャンルにわたりアート作品を手がけているアーティスト。花魁の履く下駄をモチーフとした踵のない「ヒールレスシューズ」は、レディー・ガガが愛用したことで世界中から一躍脚光を浴びた。https://noritakatatehana.viewingrooms.com
岡野道子(おかの・みちこ)●1979年、埼玉県生まれ。その場に住む人たちのコミュニティーに根差した設計を得意とする建築デザイナー。東日本大震災以降、宿泊施設から支援住宅、公営住宅など、体験する人の声を取り入れながら、建築を通した「まちづくり」にまでフィールドを広げ活動している。http://michikookano.com