素材まるごと旬を味わえる、江戸前天ぷらの最新型4軒。
しっかり伝統を守りながら、時代と共に歩んだ進化も感じさせる……。そんな江戸前天ぷらの最新型ともいえる4軒を取材した。
【門前仲町/ふく庵】“やせ我慢”で揃える、厳選された魚たち。
いくつもの河川が流れ込む東京湾は、豊富な餌があるばかりか、波が穏やかだ。
「のんびり泳いでたっぷり餌を食べる。だから、江戸前の魚はみんな顔つきが穏やか。いわばお嬢さんお坊ちゃんなんです。皮が薄くて、筋肉も少ない」
そんな風に表現するのは「ふく庵」のご主人、中島昭彦さんだ。江戸前の天ぷらと言えば必ず名の挙がる「みかわ是山居」で7年の修業を積んだのち、店を開いた。
「江戸前を謳うからには、やはりそこで獲れた魚をどうしたって手に入れたい。厚みのある身質が天ぷらに合っておいしい」と、仕入れに奔走する。結果、すべてとは言わないが、キスにアナゴにイカと、通年、かなりの割合で江戸前を使っている。驚くのは、海老から始まりそれらが入るコースが3,500円で食べられるということだ。
「もちろん、無理しています(笑)。でも“江戸前はやせ我慢”。師匠も言っていました」
高級天ぷら店の構えはないが、それがかえって、食材へのつぎ込みを物語る。言うまでもなく、腕は確かだ。下町らしい人情にあふれた江戸前天ぷら店である。