東京の下町、三ノ輪の昭和レトロなお店【前編】

東京の下町、三ノ輪の昭和レトロなお店【前編】

写真:殿村誠士 文:今村博幸 マップ制作:別府麻衣

明治通り、昭和通り、日光街道が交わる三ノ輪は、古くから交通の要所だった。台東区の北部に位置し、北は荒川区南千住、南東部は吉原でも知られた日本堤、西部は台東区根岸に接する下町中の下町だ。商店やビル、寺院や住居などが混在する、江戸の風情を残す街でもある。中心にあるのが、荒川線の終点三ノ輪駅。線路に沿って開けているのがジョイフル三ノ輪、正式名称は三ノ輪銀座商店街で、1919(大正8)年の発祥である。


とりふじ(鶏肉惣菜) ── 豊富な種類が嬉しい、下町の惣菜屋さん。

醤油やショウガで下味をつけた唐揚げは100g¥215、個数でも注文可能だ。創業60年を超える実力が詰まる。ご飯との相性も抜群。

もともとは焼き鳥から始まった、という「とりふじ」。時を経て、唐揚げ、コロッケ、焼き魚まで、なんでも揃う下町の惣菜屋になった。

その焼き鳥、「タレは、創業以来ずっと同じですよ」とは店主張替一弘さん。「少し甘めかもしれない」と言うが、醤油もみりんもどこかが尖ることなくこなれた味で、味蕾にすんなりとしみ込んでいく。大ぶりの唐揚げも、醤油味はしっかりと感じるが必要以上に主張しない、そう、思えばさっぱりした下町気質に通じるような味だ。

「お年寄りや子どもも多いから、彼らが喜ぶ味になってるかな」と張替さんの笑顔がまぶしい。

実際に親子で買い物に来る客も多い。母親に促されて、金を払うのを手伝う子どもの姿も。ここの惣菜はまさに、誰もに愛される味だ。

整然と並ぶ串のテリ具合は、見ただけで胃袋を刺激。つい多めに買ってしまう。

商店街の中でも人が集まる場所に店をもつ張替さんは、街のリーダー的存在。

東京都荒川区南千住1-30-8
TEL:03-3807-3707
営業時間: 9時〜19時 
定休日:月


オオムラパン店(パン屋)──素朴だけど味わい深い、焼きそばパンに舌鼓。

店頭の看板には「パンのオオムラ」と書かれているが、昔の呼び名は「オオムラパン店」。そのまんまの店名が無性に愛おしい。

飾り気のないショーケースが、時代を感じさせる「オオムラパン店」。甘すぎないクリームパンのクリームはなめらかで舌が喜んでいるのがわかる。メインは、コッペパンに惣菜を挟んだおかずパン。「あっ! 昔絶対にこれあった」というものが挟んであり楽しい。

「お客さんに喜んでもらえれば」と、寡黙だが人懐っこい表情が印象的な店主大村利和さん。ハムカツやコロッケも捨てがたいが、なんと言っても味わいたいのが焼きそばパンだ。

「ふっくらとしたパンを目指していますが、他に特別なことはしてませんよ」と、謙遜する大村さんだが、小麦の風味豊かなパンと自らブレンドしたソースで味付けした麺を一緒に味わうと、舌も身体も昭和に戻される特級品だ。

午後の遅めの時間には、売り切れ必至。買うなら早めに。

焼きそばと双璧をなすハムカツパン¥140。ソース味が、人の心を躍らす。

焼きそばと双璧をなすハムカツパン¥140。ソース味が、人の心を躍らす。

東京都荒川区南千住1-29-6 
TEL:03-3891-2957
営業時間: 9時〜19時 
定休日:水、年末年始


きく(天ぷら・惣菜)──サクサクの天ぷらと、割烹着姿の笑顔が絶品。

人気の天ぷら3品。左下から時計回りに紅しょうが¥110、ほろ苦さがポイントの春菊¥120、甘い玉ネギ¥120

どんな有名天ぷら屋にも負けない味が「きく」にはある。

「最初は煮物専門だったけど、いまの名物は紅しょうがの天ぷらです」と、店主の覚前三枝子さん。つくり方はいたってシンプル。しょうがの汁を絞り粉に入れて揚げるだけ。鮮やかな赤が見た目にも美しい。シンプル故に旨さは強烈だ。紅しょうがの酸味を心地よい辛みが追いかける。ひと口食べてしまうと、もうひと口が我慢できない。

「うちの商品は、軽くさっぱりしていて胸焼けをしないのが特徴です」

日曜休みだが、時々不定期で休む。悪天候だと早めに店を閉めてしまう。「そんな時に来てくれたお客様には、次来た時にちょっとおまけして勘弁してもらいます」

そんなゆるさも、昭和に許されていた美徳。未だ継続中だ。

笑顔が素敵な覚前さん。店頭に椅子を置いて客と長話をすることもしばしば。

天ぷらの詰め合わせ。手前右からキス¥120、イカ¥220、紅しょうが、など。

東京都荒川区南千住1-19-2
TEL:03-3807-0615
営業時間: 10時〜19時 
定休日:日、年末年始 


こちらは2020年12月15日(火)発売のPen「昭和レトロに癒されて。」特集よりPen編集部が再編集した記事です。

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