白ブドウ「ナイアガラ」のイメージを覆す、北海道余市発の...
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鹿取みゆき・選&文  尾鷲陽介・写真

白ブドウ「ナイアガラ」のイメージを覆す、北海道余市発の「ノボリコノボリ」

ノボリコノボリ ランセッカ

「ナイアガラ」という白ブドウがある。ときには強すぎると思えるような甘い、華やかな香りが特徴だ。食用として店頭に並ぶこともあるが、日本でワインの原料としても使われる量は、甲州、マスカット・ベーリーAに次いで3番目に多い。

ところが、この品種。ワイン通から軽視されたり、毛嫌いされたりすることがある。

「ノボリコノボリ」はそのナイアガラで造られたペットナット(ペットナットとは、野生酵母で造られた微発泡酒のこと)だ。グラスに注げば、泡立ちとともに、フレッシュなリンゴやハーブの香りが立ち上る。十分に膨らみがある果実味。豊かだがきれいに溶け込んだ酸。切れ味のよい後味。それらがうまくバランスしている。アルコール度数は低いが、それがかえってこのワインの魅力になっている。そう、まるで蜜のたっぷりはいったリンゴを搾ったフレッシュジュースのような飲み心地なのだ。ナイアガラ嫌いにこそ飲んでほしいワインだ。

北海道後志地方の余市町は、いわゆるワイン用専用の品種に加えて、じつはこのナイアガラの栽培が盛んだ。余市町のワイナリー、ランセッカの山川惇太郎さんは、このナイアガラで夏に飲めるワイン、しかもスパークリングワインを造ろうと思った。

山川さんの父親は余市町の隣の仁木町で果樹農家を営む。山川さん自身は、農業としてのワイン造りの道を選ぶ。「品種や土壌、ブドウの状態や醸造方法により千差万別のワインでは、自分独自の味をだし、いつもの日常に彩りを添えることができるかもしれない」という。また彼自身は、スティルワイン(発泡性のないワイン)は赤ワインを好む。自社農園のブドウの赤ワインは2022年の春に発売される予定。彼の赤ワインもまた楽しみだ。将来は年間生産量1万本を目指す。

「もともとナイアガラのようなアメリカ系の品種は、発泡酒にするのがいい。炭酸のぴりっとした感じと合わせるほうが味わいが落ち着くのではと考えたのです」と笠さんは語る。「それに夏に飲める泡物がほしかった。しかも低アルコール、言ってしまえばビールのようなスパークリングワインをイメージしていました」。

造りにおいて気をつけたのは、香りだけが目立たないようにすること。

「香りが前面に出るとけばけばしく飲みにくくなるために、香りを抑えるだけでなく、他の特徴も出てくるように心がけました」と笠さん。そのため、房のまま2から5日間おいて果皮の成分を果汁に引き出しだ。

ブドウは、以前から交流のあった農家さんが有機栽培で育てたものが入手できたという幸運にも恵まれた。そして房のまま置いている間に野生酵母による発酵が始まった(ただし最後の瓶詰め時には培養酵母を加えている)。亜硫酸の使用量はごくごく微量に抑えている。スパークリングだがギスギスせずに、ソフトな質感なのはそのせいなのかもしれない。

実は山川さんは昨年ワイナリーを設立したばかり。いわゆるワインマニアだったわけではなく、「農家になって田舎で暮らす」という漠然としたビジョンを持っていた。ワインに限らず「お酒」というものが好きで、そのビジョンは、しだいにブドウを育ててワインを造って暮らすという具体像に描き出す。縁あって同じく余市のドメーヌタカヒコでの研修の機会も得た。そこで学んだことは、「ワインについて考える」ということだった。

山川さんのワイナリーはスタートしたばかりでこれからが本番だ。畑での営みも、ワイン造りも、固定観念には囚われず、何が環境への負荷を減らすのかを考えながら、取り組んでいくという。

2015年に開園した自社農園は主に西向きの急斜面に拓かれており、合計2ha。そのうち1.7haが山川さんの区画。0.3haをパートナーの小春さんが担当。西日がしっかり入り、ブドウの熟度が期待できる。現在は硫黄とボルドー液という有機栽培で認められている薬剤のみ使用。ただしこの方法に執着はなく、環境により負荷の少ない薬剤が見つかったら、それらの使用も検討する。Photo:ランセッカ

自社管理面積/2ヘクタール

栽培醸造家名/笠惇太郎

品種と産地/余市町登地区産ナイアガラ100%

容量/750ml

価格/¥1,980(税込)

造り/収穫時に選果、全房でタンク内で2〜5日ほどスキンコンタクト。この間、上から櫂棒で押す。一部のタンクにオリ下げ酵素としてペクチナーゼを添加。水平機械式プレスでプレス。スキンコンタクト中に野生酵母での発酵が始まるが、上澄みを樹脂製タンクに移してそのまま発酵を続けさせる。瓶詰めまでに澱引きを3回。亜硫酸は部分的・試験的に添加したのみ(1ppm以下)。無濾過、無清澄。瓶詰め時に乾燥酵母を添加し、3〜4気圧になるように補糖。

栽培/交流のあったサニー・サイド・ファームから購入。除草剤不使用。不耕起草生栽培。春先に石灰硫黄合剤、夏場に病害が発生した区画にボルドー液を1度使用した。収穫は9月30日からおおよそ2週間。9月の天候不順により糖度が低かったが、うどんこ病の発生が見られたため、想定よりも少し収穫が早めとなった。


問い合せ先/Lan Seqqua(ランセッカ)
メール:info@lanseqqua.jp
https://lanseqqua.jp/


※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。また極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。

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