日本ワイナリーの可能性を感じさせる、滋賀県産のブドウのみで造られたワイン
レコルト ヒトミワイナリー
このワインにはいい意味で裏切られた。口に含むと質感はとてもやわらかい。わずかに感じられるオレガノ、クローヴなどスパイスの風味の奥にはグリーンノートもあるが、それがフレッシュな印象をもたらしている。強くはないが、ベリー系の香りもしだいに立ち上ってくる。渋みは極めて穏やかで、果実味のバランスは絶妙、そして口当たりはとてもなめらかでするすると飲めてしまう。
裏切られたといったのには、3つの理由がある。このワインが滋賀県産のブドウのみで造られたこと、そしてさらには亜硫酸をまったく加えずに造られたということだ。発酵も培養酵母ではなく、野生酵母に委ねて造られている。
このヒトミワイナリーのある地域は東近江と呼ばれる。ワイン用ブドウの栽培が活発な北海道や長野県に比べると、ブドウ栽培の気候条件がベストとはいえず、いままでは県外に原料であるブドウを求める傾向が強かった。けれど近年は、県内のブドウを使うように方向転換しつつある。
「自分たちの目が届く、近隣の農家のブドウを使ったり、自分たち自身が原料ブドウを育てたりすることが、おいしいワイン、目指すワインを造ることへの近道だと考えるようになりました」と、ワイナリーでこうした取り組みを進めてきた山田直輝さんは語る。もちろんそれは楽な道ではなかった。ブドウ栽培にはよりいっそう人手をかけて、草刈りやブドウの樹の管理に時間を費やす必要がある。
「昨今の局地的な天候の変化を見ていると、収穫時の数日のタイムラグが致命的になることもあります。地元のブドウなら、局地的な天気の変化さえも体感できるため、より適切に収穫のタイミングを見極めることができるというメリットもあります」。生産量はいっとき減ったが、地元のブドウを使おうとするワイナリーの姿勢を見て、生食用からワイン用に転換する地元の農家の後継者も出てきた。
レコルトの原料となる品種は、マスカット・ベリーAとメルロ、そしてカベルネ・サントリーという3つの品種。実は、初リリースの時には、それぞれの品種をブレンドせずに単体で房ごと仕込んでいた。しかしマスカット・ベリーA単体では味わいがぼんやりとするし、カベルネ・サントリーには野性味がある。3品種をブレンドすることで、マスカット・ベリーAは華やかさや旨味を、カベルネ・サントリーはワインの骨格を、メルロが全体の味わいを落ち着かせるようになり、ワインとしてのバランスが生まれた。
造りでは果梗(ブドウのヘタや柄の部分)を外し、粒のまま発酵が始まるのを待った。そうすることで親しみやすい果実感も生まれた。
「亜硫酸を加えないために、まずは畑でていねいに選果しています。また亜硫酸を加えず、ある程度酸素と接触することで硬さがとれて、枯れた感じも生まれ、落ち着いたやわらかい甘みが感じられるようになりました」
絶妙なバランスの味わいの裏にはこうした造り手の努力があったのだ。滋賀という土地で育まれたこのワインは、日本ワインの新たな可能性を実感させてくれる。
自社管理面積/1.4ヘクタール
栽培醸造家名/石本隼也
品種と産地/東近江市産マスカット・ベリーA68%、メルロ20%、カベルネサントリー12%
容量/750ml
価格/¥2,750(税込)
造り/畑で収穫時に可能な限り選果後、メルロー、マスカット・ベリーA、カベルネサントリーの順に除梗して順々にポリタンクに仕込む。最初のメルローの仕込みから約1カ月後に搾汁を行い、約2カ月半のポリタンクで静置。2度オリ引きを行い、瓶詰め。無濾過、無清澄。亜硫酸塩の添加はなし。
栽培/ブドウの熟度に合わせてメルローは9月12日、マスカット・ベリーAは9月20日、カベルネサントリーは9月27日に畑にて選果しながら収穫。自社農園で栽培。除草剤の散布不使用。草生栽培。2019年産においては、3月後半に石灰硫黄合剤の使用。5月後半にマスカット・ベリーAの圃場のみ化学農薬のジマンダイセンを使用。そこから収穫まではボルドー液を3回、メルローには1度カリグリーンを使用している。仕立てに関してはすべての品種で短梢一文字仕立て。5〜7月の間は果実部分の雨よけのためビニールによる簡易被覆を行っている。
問い合せ先/ヒトミワイナリー
TEL:0748-27-1707
※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。また極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。