野菜栽培に勤しむ造り手から届いた、リッチな凝縮感に満ちた微発泡酒。
リンダ パパプル
グラスに注いだだけで、これはおいしいに違いないと思うワインがある。わずかにオレンジ色がさした輝く黄金色。注いだ時に立ち上る熟した黄桃のような香り。またその背後から漂ってくる、味わいの緊張感を予想させる金属的なキーンとしたニュアンス。吉田裕一さんが造る「リンダ」はそんなワインだった。
口中に含むと、それはまるで凝縮した果実のエキスだ。その凝縮さが重たさにならないのは、豊かな酸とわずかなほろ苦さと、少しばかりの発泡性があるからだろう。柑橘系の果実やが口中から喉を落ちていくと、余韻には旨味がじわじわと広がってくる。とろりとした粘性も魅惑的だ。秘められたパワーも十分。原料は、筆者がいまイチオシのプティマンサンというブドウが主体になっている。
このワインの造り手である吉田さんの生活は、他の造り手とは幾分異なっている。野菜造りが彼の生業の半分を占めているのだ。農業への関心をきっかけに、ブドウを育て始め、ブドウを育てること、ワインを造ることが生活の中心になっていく造り手は多いのだが、吉田さんはそれとは真逆の道のりを辿ってきた。
ワイン雑誌のナチュラルワインの特集を読んだのが、この道に興味をもったきっかけ。さまざまなナチュラルワインを飲んでも、本当に自分で美味しいと思えるものはなかった。しかし飲み進めるうちに、ボーペイサージュの岡本英史さんのワインに出合い、稲妻に打たれたように感じた。これだと思った。
「ワインを造っているところにいまいくしかない。ワインを造ろう」と決心、ワイン造りの道に入った。その後、自分自身でブドウを育てるようになったが、最初の年に自分ひとりで世話をしたブドウは全滅。このままではいけないとペイザナ農事組合法人の小山田幸紀さんのところに駆け込んだ。そして、2014年からはこの法人の一員になった。アルバイトでブドウを育てながら畑を探していたが、この間なんとか口糊を満たそうと、野菜も手がけるようになった。さらに野菜畑も増やして、いまでは生活の3分の2を野菜栽培に費やしている。
「野菜があってこその僕だと思っています」と吉田さん。「それに野菜はサイクルが短い分、経験を多く積むことができ、それをブドウ栽培にも生かせる。ブドウの様子を見極めるポイントも掴めた」
主要原料ではるプティマンサンはやや晩生ではあるが、糖度があがりやすい品種としても知られる。2018年の糖度は24度まで上がった。口中の厚みは十分に熟したブドウを使っているからなのだろうか? リンダの味わいはプティマンサンが核をなしているものの、実はこのワインには、ほかにシュナン・ブラン、アルバリーニョ、ロモランタン、ムニュピノと4種類のブドウも入っている。
これからはシュナン・ブランが減って、彼が敬愛するロワールのナチュラルワインの旗手クロード・クルトワが手がけていた、ロモランタンとムニュピノが増えていくという。これからリンダがどんな味わいになっていくのか、楽しみでならない。
自社管理面積/0.4ヘクタール(野菜の畑は2ヘクタール)
栽培醸造家名/吉田裕一
品種と産地/プティマンサン約90%、その他(シュナン・ブラン、アルバリーニョ、ロモランタン、ムニュピノ)、山梨県韮崎市
容量/750ml
価格/¥2,750(税込)
造り/房のまま搾って、果汁を低温で一晩おき、澱引き後、発酵が始まるのを待つ。約11カ月後、そのまま瓶詰め。亜硫酸は無添加。無ろ過無清澄。発酵助剤、酵素などの添加物は無使用。
栽培/2015年、ひとつ目のブドウ園を開園。殺虫剤、除草剤は撒かない。ボルドー液を6回、石灰硫黄合剤を1回散布。収穫は9月23日。2018年にふたつ目の畑の開園。
問い合せ先/パパプル
paysan.yy@gmail.com
※この連載における自然派ワインの定義については、初回の最下段の「ワインは、自然派。について」に記載しています。また極力、栽培・醸造についての情報を開示していきます。