「誰もが自分の時間を生きているということに気付かされますね」(並木浩一)
―純米酒、ふだん飲み。私のSAKANA vol.1―
酒の味が引き立つような味わい深い逸品を「肴」にたとえ、各界で活躍する人物に愛用品を紹介してもらう新連載がスタート。ときに偏愛すら感じさせる、彼らの熱い思いを探ります。
大学で教鞭を執りつつ、腕時計ジャーナリストとして活躍中の並木浩一さん。幾多の銘品に触れ、1本3億円の腕時計を見たこともある並木さんには「これさえあれば5合でもお酒が飲める」というコレクションがあります。それは、意外なことに腕時計ではありません。ミネルバのストップウォッチです。
ミネルバは1858年にスイスで産声を上げた腕時計の名門ブランド。自社ムーブメントの製造から手がける卓越した技術力は、ストップウォッチでも花開きます。象徴的なのが1秒計です。機械式でありながら毎秒100振動するムーブメントを搭載、100分の1秒まで計測できるストップウォッチはギネスにも認定されました。製造した種類は多岐にわたります。陸上競技用にはじまり、12時間積算できるラリー用、放送局で使われた60分計……。
「こんなものがあったら、という声をかたちにしたのでしょう。プロの道具として100種類以上。正確な数はメーカー側も把握してないようです」
生産が中止されて久しい今日、海外で売りに出されたと聞けばチェックを怠らない並木さんには、蒐集だけにとどまらぬ愉しみがあります。それはストップウォッチの針を実際に動かすこと。
「たとえば、1秒計と3秒計と100秒計を同時にスタートさせてみる。3つの針が別々のスピードで新たな時を刻み始めるわけです。とはいえ、なにかの時間を計るわけではない。ただ眺めている。世界中でこんなことしているのは、間違いなく自分だけ(笑)」
ストップウォッチを眺めていると、時計とは異なる感慨に耽るともいいます。
「時間は万人に共通と思いがちだけれど、実は違うのではないか。短距離選手にとっての10秒や、ラリー競技の24時間。誰もが自分の時間を生きていることに、改めて気付かされます」
現在の計測機器はデジタルが主流で、機械式が活躍する場はほとんどありません。
「ストップウォッチは実用のために生産された、夢のない道具。それが実用性から切り離されてみると、なんてロマンティックなんだろう!って」
精緻を極めた道具は、本来の目的を超越した美と価値を宿すのです。(文:小久保敦郎)
並木浩一 腕時計ジャーナリスト
●1961年、神奈川県生まれ。桐蔭横浜大学教授。腕時計を論じる際、表象文化の視点で捉える独自の考察スタイルで、幅広いファンを獲得している。著書『腕時計一生もの』など。
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