日本ワインで乾杯!We Love Japanese Wine!
尾鷲陽介・写真
main photograph by Yosuke Owashi
中棚メルロ
異業種からの参入が増えている日本ワイン業界。証券会社出身の人もいれば、医者や通訳、そして前回ご紹介した珈琲や食品の輸入販売会社のキャメルファームなど、ワインづくりを始める人たちの業種は本当にさまざまです。そんななか、長野県小諸市の老舗旅館が2018年秋にワイナリーを立ち上げようとしています。旅館の名前は中棚荘。明治時代に創業して100年以上の歴史をもち、島崎藤村に縁のある宿としても知られています。
ブドウ栽培を始めたのは、16年前の2002年。「小諸の風土を活かした農産物で、訪れるお客様をもてなしたい」と願う5代目の富岡正樹さんがブドウ園を拓いたのです。中棚荘の食事処で使う蕎麦も小麦も自分たちで栽培するのが基本です。畑は宿からクルマで10分ほどの、浅間山を望む御牧ヶ原の高台に位置しており、長野県のブドウ栽培地としては比較的冷涼な気候条件にあります。15年には三男の隼人さんがベトナムから帰国。東御(とうみ)市にあるワイナリー「アルカンヴィーニュ」が開催する千曲川ワインアカデミーでブドウ栽培やワイン醸造を学び、事業に参画してからは、ワイナリー設立の夢もいちだんと現実を帯びてきました。設立するワイナリーの名前も「ジオヒルズ」と決まりました。
「ジオは英語で『大地』を、ベトナム語で『風』を意味しています。大地で育まれたブドウがワインとなり、風のように飲み手に届いてほしい」と隼人さんは話してくれました。16年の収穫からは、隼人さん自身がアルカンヴィーニュでワインづくりに携わるようになり、シャルドネもメルロもスタイルががらりと変わりました。今回ご紹介するメルロは、質感がずっとやわらかくなり、まろやか。まるで飲む人の心まで優しく包んでくれそうな味わいです。こういうメルロこそ、日本ワインらしいと思うのです。
連載「日本ワインで乾杯!」はこれで最終回となります。今後は、日本ワインを中心とした自然派ワインがテーマの新連載を開始する予定です。乞うご期待!