夏にショートパンツを穿くことが広くファッション化したのは、2010年前後のことだろうか。時代の変化に敏感なショップスタッフが仕事中も愛用して彼らの服装が手本となり、男性が街中で脚を出すことへの抵抗感が薄まった。いまやショートパンツは蒸し暑い日本の春夏の必須アイテムである。ただしラフになりがちだから、品格のある服装をしたいならドレッシーなタイプを選ぼう。ここに紹介するのは、トラッドなリゾート地での装いを彷彿とさせるクラシカルモダンな一本。夏の定番色であるベージュの生地は麻100%で、仕立ては本格的なトラウザーズの流儀に基づく。カタチが袴のようにワイドで、ここ数年流行しているビッグシルエットにも合わせやすいだろう。あえてスリムなトップスをタックインし、シャープ&ルーズな着こなしを狙うのも一興だ。

持ち物が多い時も多機能ポケットが装備されたアウターなら収納も簡単、バッグ要らずで移動ができる。このアウターはインターナショナルギャラリービームスが英国の老舗バブアーに別注し、同ブランドのアーカイブから復刻させたフライフィッシング用ジャケットだ。胸のフライ（毛鉤）パッドやロッド用のループ、Dリングなど本格的なフィッシングウエアのディテールを備え、袖口のレザートリムや襟のコーデュロイなどが英国のヘリテージを感じさせる。前身頃に配された大小7つのポケットは小さなバッグに相当する収納力をもつ。さらに、定番のオイルドクロスに代わって採用された、コットン×ナイロンの混紡素材が、春夏の街歩きでも快適な着心地を約束してくれる。

気温が上がって上着を脱ぎ、シャツやTシャツ1枚となるこれからの季節に困るのがポケット不足だ。薄着でも手ぶらでリラックスしたい日もあるだろう。そんな時にお薦めしたいのが、エンジニアド ガーメンツがデザインした、ベストとボディバッグの中間のようなショルダーベスト。服の内側に身に着けることも、アウターの肩に下げ、バッグのように使うこともできる優れモノだ。今季登場したのはフランスのケーウェイとコラボしたモデル。撥水性と透湿性を備えた高機能ナイロンを採用し、表面には 2017年秋冬コレクションに用いられたアニマル柄をプリントしている。スマートフォンなどが入るコンパクトなポケットが1個だけ付いたシンプルなデザイン。重宝すること請け合いだ。

あたかもモノクロ写真が飾られたコンテンポラリーな白壁の室内風景を切り取り、服として表現したようなシャツである。手の写真の下にはブランド名とともに「SERIES / THE OTHER HAND / 01」と作品タイトルが付いている。これぞ身に着けるアートギャラリーだ。無機質なオープンカラーシャツに、有機的な手の写真が温もりを添え、ユニークなコントラストが生まれている。仕立てが優れていることは、精密に柄合わせされた前身頃からも一目瞭然。デザインしたのはユニフォームやミリタリーなど、ミニマリズムあふれる作風を得意とするニール・バレット。機能美を実践するバウハウスを好む彼らしく、このシャツも着回しやすくシンプルに落とし込まれている。あまたのフォトプリントものとは一線を画す会心の出来だ。

“ドーパミン・ドレッシング”というファッション用語をご存じだろうか。脳内麻薬のように、着ると気分がアガる服のことだ。世界中でステイホームが続く中で心を開放させるこのニューワードは、2021 年春夏に注目される重要なトレンド。ここに掲載している迫力満点のシャツも、着るモチベーションを高めるエネルギーに満ちたアイテムである。ロブスターの写真が大胆にフロントを覆ったこのアートピースは、ルーク・メイヤーがデザインするオーエーエムシーの逸品。彼は今季のコレクションに関して、「コロナ禍のいま、世界に存在する美を見つめ直す必要性を感じた」と語っている。新しい未来へと歩む希望が湧くパワフルなウエアこそ、ニューノーマルな生活に必要とされる価値ある服なのだ。