フォトエッセイ:いますぐ服を着替えたくなる、5つのストーリー

フォトエッセイ:いますぐ服を着替えたくなる、5つのストーリー

構成・写真・文:高橋一史

当記事内のファッションアイテムは、すべて筆者所有のもの。

はじめに。


“年相応” という言葉がある。大人のファッションについての記述でよく目にする言葉だ。若い頃はこの年相応を「年齢を重ねたら、落ち着いた紳士的な装いをするべき」という意味に解釈していた。ところが自身がその対象の年齢になって久しい2021年現在、この言葉を別の意味に捉え直す必要性を感じている。すなわち年相応とは、「変わってしまった顔や体型に合う服を、過去の自分から離れて新しく探すべき」という意味であると。

バイト収入をすべて服に注ぎ込んでいた20歳前後のとき雑誌で読んだ著名人2名のインタビューを、いまだによく思い起こす。ひとりは当時賛否両論だった、前衛的な若き舞台演出家Nさんだ。「人は年を取ると無自覚のうちに何でもこじんまりとまとめ上げてしまう。だから意図的に自分を壊していく作業が大切だ」。それが彼が語っていた内容である。もうひとりは、世界に名だたる日本のトップファッションデザイナーのYさん。「人は着るものに馴染んでいく。スーツを着てネクタイを絞めていると、そういう人間になっていく」。この文脈はスーツ批判ではなく、自身の意思で服装を決める大切さを説いたもの。実はどちらもソースが手元になく、コメントもたぶん記憶補正されている。おふたりに迷惑が掛からぬように名前は伏せさせていただいた。

いまや時は、21世紀。若かりし日々を過ごした1980~90年代は、30年も前の世の中だ。あたかも80年代当時の大人が過去を振り返るならそれが、戦後すぐの50年代に相当することを思えば、ファッションが様変わりして当然と気づく。男性的という言葉の意味も、ジェンダーの概念も大きく変わった。ここにお届けする5つのエッセイは、アラフォーからアラフィフの男性に向けた現代の服選びのヒント集である。優れたお洒落術を持ち合わせる人や、俳優やモデルのごとく恵まれたルックスの人には釈迦に説法な発想の転換のコツだ。

私は身につけているアイテムを、同世代より若い世代に気に入られるのが嬉しい。女性とワイワイと、ファッションとスイーツの話ができるのが嬉しい。“ただのおっさん”より、“若づくりのおっさん”のほうが幾分マシと考える。「変えてよかった」と思った経験も踏まえたストーリーを、どうぞご一読いただければと願う。


1. 黒よさらば、白よウェルカム
2. 顔に貫禄がついたら、服はクリーンに。
3. ジェンダーレスバッグなら、ジル サンダー、ロエベ、マルニ
4. 女性のセンスが最高のお手本。
5. 選ぶべきは、着たことのない服。

1 / 6p