SF名画『E.T.』を観れば、80年代の"アメカジ"ファッションがわかる!
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一1982年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の映画『E.T.』。地球に取り残された宇宙人と少年の交流を描いたこの作品は、単なるSF作品の枠を超え、多くの人の心に永く残る名作となった。今回は、この名画を彩る80年代の“アメカジ”の名品について語る。
『E.T.』が公開されたのは1982年。E.T.とはThe Extra-Terrestrial=地球外生命体の略で、地球に取り残されてしまったE.T.とアメリカの郊外に住む子どもたちの交流を描いている。アメリカ国内では当時3億ドルという映画史上最大の興行成績を記録し、『ジュラシック・パーク』(93年)に抜かれるまでその記録は破られることがなかった。
エンディングでE.T.は指をかざして、主人公エリオット(ヘンリー・トーマス)の顔に近づける。その瞬間にE.T.の長い指先が光り、「イツマデモ、ココニ、イルヨ(I’ll be right here.)」と話し、エリオットと心が通い合っていることを伝える。まさにこの映画のハイライトシーンで、多くの人が涙する場面だ。このときにエリオットが着ていたのが、赤のスウェットパーカ。E.T.の指先の光や心臓部の輝きが、エリオットの赤いパーカとリンクしているようにも見える。
2019年11月にアメリカで『E.T.』の続編かと思われるムービーが公開された。『A Holiday Reunion』と名付けられた約4分の動画は、Xfinityと呼ばれるアメリカの通信企業のテレビCMだった。47歳になった主人公エリオットの家にE.T.が戻ってきて、エリオットの家族たちと過ごすというストーリーだ。この作品でエリオットの息子が着ているのが、やはり赤のスウェットパーカ。この作品に携わった人にとっても、赤のパーカは特別な存在であったことは想像に難くない。
エリオットは、赤いパーカ以外にもソルト&ペッパー=霜降りやネイビーのパーカでも登場するが、いつもフロントが開けられるジッパータイプを着用。一方、エリオットの兄マイケル(ロバート・マクノートン)は同じスウェットパーカでもプルオーバー、つまり被り式のモデルを着用する。
スウェットシャツやスウェットパーカは、1920年代頃にアメリカで着られるようになったアイテムだ。『ワークウエア⑥』(ワールドフォトプレス)でファッション評論家の出石尚三は、1923年に発行されたシアーズ・ローバック社のカタログに「コットン・アスレチック・シャツ・ウイズ・サポーター」と銘打たれたスウェットシャツの原型がすでに登場していると書く。本来はスポーツのトレーニング用に開発されたアイテムであるが、1980年代頃にはアメリカでは普段着として着用されるようになっていたことが『E.T.』からもわかる。
東京・代官山にある「ハイ!スタンダード」が扱うスウェットシャツは、アメリカのペンシルバニアで1948年に創業されたキャンバー。素材から縫製まで、すべてアメリカでつくり続けているという稀有なブランド。いまでも学生スポーツチームなどから発注を受けてTシャツやスウェットアイテムをつくり続けていると聞くが、エリオットが着ていたものを彷彿とさせるジップフロントの赤いスウェットパーカも揃う。スウェットシャツの名ブランドだけのことはある。
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