名優マイケル・ケインが映画『狙撃手』で渋く着こなしたネイビーのコート
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一第一次世界大戦でイギリス軍が塹壕(トレンチ)戦用に採用したトレンチコート。優れた防水性と耐久性に加えて、機能の塊のようなアイコニックなディテールを備えている。今回はトレンチコートが登場するさまざまな名画を題材に、不朽の名品のいまを考える。
『ダークナイト トリロジー』や昨年公開された『テネット』など、クリストファー・ノーラン監督作品にはもはや欠かせない存在になった名優マイケル・ケイン。本名はマイケル・スコットで、ケインの名前は電話をしていとき時に偶然見掛けた『ケイン号の叛乱』(54年)から付けられたと聞く。デビュー以来数々の映画へ出演し、そのキャリアを称え1993年にはCBE勲章、2000年にはナイトに叙された。Sirの称号をもつ、イギリスを代表する俳優である。
ケインのトレンチコート姿がたっぷり見られるのは、71年のイギリス映画『狙撃者』である。この映画の原題は『Get Carter』で、ケインが演じたのはジャック・カーターと呼ばれるギャング。舞台は1960年代末から70年代にかけてのイギリスで、謎の事故死を遂げた兄フランクの復讐のために故郷ニューカッスルに戻り、抗争に巻き込まれていくというストーリーだ。
臨場感あるロケーション撮影と全編に流れるジャズミュージックでクールに仕上げられた作品だが、ケインのトレンチコート姿もクールそのもの。ケインは戦闘服のようにスリーピースの上にネイビーと思われるトレンチコートを渋く着こなす。フロントのボタンを全部しっかりと留めて、ベルトもバックルにきちんと通してウエストを締める。『カサブランカ』のボガートの着こなしとは大違い。コートの襟も立てずにそのまま。それはどこにも隙を見せないギャングのスタイルを表現しているようだ。トレンチコートと拳銃は、ハードボイルド小説に登場する私立探偵やギャングに欠かせないアイテムだが、『サムライ』(68年)で孤独な殺し屋コステロを演じたアラン・ドロンも同じようなトレンチコートの着こなしをしている。
今回紹介するのは、ケインの出身地・イギリスで1890年に創業されたグレンフェルのトレンチコート。著名な探検家であり、医師でもあったウィルフレッド・グレンフェル卿が、自ら開発した「グレンフェル・クロス」で有名なアウターブランドだ。この生地は熟練した職人が繊細な綿糸を使い、1インチ四方に600本以上織り込んで製作されたもので、防水、防風、耐摩耗に優れ、さらには透湿性も兼ね備えた天然の高機能布地だ。1908年に開発に成功し、エベレスト登頂などを含めて多くの探検や調査に使われた。
今回紹介する「ドクターズコート」は、グレンフェル卿が愛用したコートを元に再現された同ブランドの大定番モデル。長めの着丈が堂々とした印象をもたらす。軽量な素材に加えてほかのトレンチコートと違うのは、肩の仕様だ。前側が「セット・イン」、後ろ側が「ラグラン」になったスプリットタイプで、見た目と着心地を両立させた秀逸なデザインをもつ。マイケル・ケインが演じたカーターのように、都会でクールに着こなしたい人に絶好のトレンチコートだ。
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