トレンチコートが印象的な映画の中で、真っ先に上がるであ...

トレンチコートが印象的な映画の中で、真っ先に上がるであろう名作とは?

文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一
イラスト:Naoki Shoji

第一次世界大戦でイギリス軍が塹壕(トレンチ)戦用に採用したトレンチコート。優れた撥水性と耐久性に加えて、機能の塊のようなアイコニックなディテールを備えている。今回はトレンチコートが登場するさまざまな名画を題材に、不朽の名品の現在を考える。

5つのシルエットを展開するバーバリーの「ヘリテージ トレンチコート」の中でも最もオーセンティックな味わいをもつ「ウエストミンスター」。モデル名はロンドンの地名にちなむ。ウエストヨークシャー州キャッスルフォードの工場で、熟練した職人によって仕立てられたモデル。一着のトレンチコートを仕上げるのに100以上の工程を要し、襟には長さに応じて180針以上のステッチが手縫いされるという。¥286,000(予定価格)/バーバリー

『カサブランカ』は、トレンチコートが登場する映画として多くのファッション関係者がいちばんに挙げる名画に違いない。公開されたのは1942年。第16回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚色賞の3部門を獲得している。主演のリックをハンフリー・ボガート、相手役のイルザをイングリッド・バーグマンが演じた。この映画でトレンチコートを着用しているのは、もちろんハンフリー・ボガート。コートの上襟を半分だけ立て、コートの前はボタンを留めずにかき合わせるように無造作に着こなす。ベルトもバックルを通さずに結び、あまった部分も荒々しく巻きつけてしまう。それがボギー(ボガートの愛称)流のトレンチコートの着こなしだ。

多くのトレンチコートは戦場での運動量を考慮して「ラグランスリーブ」になっているが、不思議なことに『カサブランカ』でボガートが着用したのは「セット・イン・スリーブ」タイプ。『フィリップ・マーロウのダンディズム』(出石尚三著)には、『三つ数えろ』(46年)でも私立探偵フィリップ・マーロウ役のボガートが同じ「セット・イン・スリーブ」を着用していると指摘している。そして、なぜ彼がその仕様のトレンチコートに執着したかは定かではないとも書かれている。ボガートのトレンチコート姿は、主題歌の『アズ・タイム・ゴーズ・バイ』や劇中の「君の瞳に乾杯」などの名セリフとともに、多くの人の記憶に残っている。

『カサブランカ』がトレンチコートを語る上で欠かせない名画ならば、バーバリーはトレンチコートの代名詞とも言えるブランドだ。トレンチコートに欠かせない「ギャバジン」は、バーバリーの創業者トーマス・バーバリーが考案した革新的な素材。それまでのオイル引きやゴム引きの布地は高い撥水性を備えているが、重さや着心地の面からは長時間の着用に不向きであった。「ギャバジン」は、1cmあたり100本以上の糸を織り合わせた緻密なツイル生地で、わずかな隙間から通気性を保ちつつ水の侵入を防いでくれる。しかもバーバリーのトレンチコートに使われているギャバジンは自社製。50年以上にわたってイギリス国内のファクトリーで織られていると聞く。

今回紹介するモデル「ウエストミンスター」は、通常使用される糸よりも繊細な綿を採用した「トロピカルギャバジン」を採用したモデル。エポレット(肩章)やガンフラップなどのヘリテージなディテールを踏襲しながらも、繊細な生地から演出される柔らかく流れるようなシルエット、あるいはオーバーサイズ気味のシルエットが、『カサブランカ』でボガートが着用したトレンチコートを彷彿とさせる。

右肩にはトレンチコートに欠かせない「ガンフラップ」が付く。これはライフル銃など撃った時に衝撃から守るために考案された。

ウエストまで届くように深く入った「インバーテッドプリーツ」。内側のボタンを外すことでさらに広がる。戦地で乗馬する際の足さばきを考慮して考案されたと言われる。ベルトについているDリングは、手榴弾を下げるためのものだった。

裏地のヴィンテージチェックは60年代に使われていたものを復刻。織りネームには英国王室御用達のロイヤルワラントが描かれている。

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問い合わせ先/バーバリー TEL:0066-33-812819
https://jp.burberry.com

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