「キング・オブ・シューズ」と称される、ジョンロブのスエードスリッポン【加藤和彦編】
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一『優雅の条件』(ワニブックス)は、加藤が亡くなった翌年の2010年に発行されたエッセイ集。ファッションだけでなく、彼が愛した料理、旅、ライフスタイルなどについて書かれた本だ。そのなかで加藤は、「服装には細かく気を使っているようで目立たず、しかし地味ではなく、どこへ行っても華やいでいて、しかもシックでスポーティー、といった相反する要素を合わせ持った服装をするのが究極ではある」と語る。そして「ぼくは一年中のほとんどを紺のスーツ、あるいは紺のジャケットで通す」という。ワードローブに占める紺の割合はなんと80%。あとはグレーという徹底ぶり。外出するときでも一切悩まない。シャツとタイを選べば5分で出掛けられるという。黒のタートルにブルージーンズ、ニューバランスでいつも同じスタイルを実践していたスティーブ・ジョブズと同じ境地に違いない。
そんなファッション、いやスタイルを極めた加藤が紺のスーツやジャケットのために選んだ靴がジョンロブだ。『エレガンスの流儀』(河出書房新社)には、「靴を誂えるとなると、ロンドンのジョージ・クレヴァリーとヘンリー・マックスウェル、パリのジョンロブが御三家であると思う」と記している。そして、「茶系のスリッポンなどが好みなら、パリのジョンロブである」とも。紐靴やブーツでは、ジョージ・クレヴァリーやヘンリー・マックスウェルなどのいかにも英国的な革靴を愛していた加藤だったが、茶系、しかもスリッポンは同じ英国出自でもジョンロブを支持している。さらに同書には、「パリ的に柔らかく仕上がる」とジョンロブを選んだ理由を説明する。
「キング・オブ・シューズ」と称されるジョンロブの創業は1866年だ。ゴールドラッシュに沸くオーストラリアで坑夫用のブーツをつくり、靴職人として名を上げた創業者のジョン・ロブ。帰国後の62年に英国万国博覧会で金賞を受賞し、翌63年に英国王室御用達の称号を得る。そして66年にはリージェントストリートに初のビスポークブティックをオープン、その3年後にはパリにも店を開いている。
1976年にエルメスグループの傘下となり、82年からは既製靴のラインを発表、現在は世界19ヵ国にショップを構える。英国靴の故郷であるノーザンプトンの工場で、膨大なアーカイブから発見された職人技やデザインを取り入れた靴を仕立ている。そんな紳士靴の歴史と類稀なるクラフツマンシップに、スタイルを極めた加藤は惹かれたのだろう。同じ茶系でも加藤はどんな素材、どんなデザインのジョンロブを選んだろうか。残念ながら、それを聞く術はもうない。
問い合わせ先/ジョン ロブ ジャパン TEL:03-6267-6010
https://www.johnlobb.com/