英国製のスーツにあえて合わせた、パリの専門店・シャルべのシャツ【加藤和彦編】
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一手元に「1970年代」を特集した雑誌『POPEYE』の80年12月10日号がある。その特集で加藤和彦の盟友、松山猛は「加藤和彦は流行児であった」と書き、彼が愛したファッションを通して70年代のファッションと風俗を特集した。加藤は70年代初めのややヒッピー風から、73年ごろにはロンドンブーツに中心にしたグラムロック、75年ごろにはスーツの襟元にスカーフをあしらった完全なエレガント路線へ。そして70年代終盤には、アディダスのスポーツウエアに身を固めたアメリカ西海岸風と、多彩にスタイルを変えた。70年代そのものがエキセントリックな時代だったこともあるが、加藤の興味は次々と変わっていった。「ステージから新しさを求める世代への彼からのメッセージだったように思われる」と松山は書く。
90年代から加藤が耽溺した英国のビスポークスーツや靴は、その到達点ともいうべきものだったのかもしれない。しかし彼のポートレイト写真を眺めていると、どこかにエレガントな味わいを感じた。“外し”というか“遊び”というか。同じビスポークスタイルでも、英国紳士とはその佇まいがまったく違う。その秘密の一端をエッセイ集『エレガンスの流儀』(河出書房新社)で見つけた。
「私は、スーツなどの服は英国製であるが、シャツはフランスの某シャツ店で誂えている。生地が非常に豊富なのと、やや柔らかい感じが出るのが好きなのであるが、ここで英国的なシャツをつくるには勇気がいる。そのシャツ屋は、世界中の男たちのシャツをつくり続けてきた。当然、一家言どころか、強力なポリシーを持っているわけで、それに逆らうことになる」
英国で注文したスーツに加藤が合わせていたのは、フランス製のシャツ。しかも自分流にシャツを仕立てていたのだ。このシャツ店は、1838年に創業されたシャルベとみて間違いないだろう。欧州の王室や政治家をはじめとして、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領や、アメリカ第35代大統領のジョン・F・ケネディが顧客リストに名を連ねる世界屈指のシャツメーカー。実はこの名店のオーダーシャツが日本でも楽しめる。日本橋三越本店と伊勢丹新宿店ではシャツのパターンオーダーが常時注文可能で、ネクタイのパターンオーダーは国内では日本橋三越本店だけが注文を受け付けている。
加藤が同ブランドに注文したのはダブルカフス仕様のシャツ。「スーツの袖口がカフスの幅とピタッとあっていること。これが最重要」と書く。ビスポークでシャツを仕立てようと思うのならば、そこまで気を遣いたいものである。
問い合わせ先/日本橋三越本店 TEL:03-3241-3311
https://www.mitsukoshi.mistore.jp/nihombashi.html