アメリカ中を回る遠征に携えた、ハートマンのトランク【ベーブ・ルース編】
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一子どもの頃から不良で、感化院のセント・メリーに入れられてしまったベーブ・ルース。実はルースはここの職業訓練で学び、洋服の仕立て職人になるつもりだった。だが幸いにも野球の才能が認められ、マイナーリーグのボルチモア・オリオールズ(現在のオリオールズとは無関係)にリクルートされる。このとき、彼が手にした年俸は年600ドル。同じ年の1914年、メジャーリーグのボストン・レッドソックスにトレードされたときには4倍強の2500ドルに。それが6年経ってヤンキースに移籍するときには、2万ドルにまで跳ね上がった。ヤンキースでチームとして初の世界一に輝き、年間ホームラン60本の偉業を達成した30年には年棒も8万ドルを超えた。この金額は当時の大統領、ハーバート・フーバーをも超えていたという。
そんなルースだから、試合のために遠征に出るときでもチームとは別行動。彼の自伝『不滅の714本塁打への道』(ベースボール・マガジン社)には、ヤンキースのほかの選手が3ドルの部屋に泊まっているのに彼だけは100ドルの部屋に。さらに「ヤンキースの大スターであるぼくは、消防自動車のような真っ赤なパッカードのスポーツカーを乗り回すようになった」とある。
そんな人生の成功者であるルースが当時愛用していたのが、アメリカを代表するラゲッジブランド、ハートマンの巨大な「クッショントップ・ワードローブ・トランク」。彼はこのトランクを持ち“消防車のような”クルマでアメリカ中を回っていたのだろう。
ハートマンはアメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーで、1877年に誕生したブランドだ。創業者はバイエルン出身のトランク職人であったジョセフ・S・ハートマン。「エクセレンスを象徴するような高級ラゲッジを製作する」というビジョンのもと、最高のクラフツマンシップを注いだ製品をつくり続けている。
もちろん、ルースが愛用したトランクはもう製作されていないが、人気の「ツイードシリーズ」は創業当時から愛されてきたラゲッジ。いま発売されているものは、現代のスタイルにマッチしたデザインにアップデートされている。本体に使われるツイードも丈夫で、シミや汚れがつきにくい100%ナイロンツイード素材を採用。トリムやハンドルには上質なレザーが使われ、その佇まいからは長いラゲッジづくりの伝統、ひいてはアメリカのものづくりの歴史を感じ取ることができる。ルースがこのラゲッジブランドを選んだ理由も、そこにあるのではないだろうか。
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