デイジーが頬ずりするほど美しい、ターンブル&アッサーのシャツ【華麗なるギャツビー編】
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一『華麗なるギャツビー』(74年)において、ニック(サム・ウォーターストン)が取り持ったギャツビー(ロバート・レッドフォード)とデイジー(ミア・フォロー)の再会で重要な小道具となるのが、ギャツビーが着ているシャツだ。
「衣類は全部ロンドン製だ。シーズンごとに送ってくる。春と秋にね」と鏡に囲まれたクロゼットに並んだシャツを説明すると、ギャツビーはたくさんのシャツを宙に舞うように投げ上げる。するとデイジーはシャツに頬ずりし、「こんな美しいシャツは初めてよ」と思わず泣く。そんな彼女の姿を見ていたギャツビーの後ろにあるクロゼットの棚にはロンドンの老舗、ターンブル&アッサーと書かれた空箱が積まれている。ギャツビーの「ロンドンから送られてくる」というセリフからも、ターンブル&アッサーのシャツであったことがわかる。村上春樹が訳した『グレート・ギャツビー』(中央公論新社)によると、「シャツはまるで煉瓦のように1ダースずつ積み上げられている」とある。しかも素材はリネン、シルク、フランネルと多彩で、どれにもインディアンブルーの糸でモノグラムが入っていたとも。当然のことながら、ギャツビーはオーダーでシャツを仕立てていたのだ。
英国・ロンドンのジャーミンストリートにあるターンブル&アッサーは1885年に創業された老舗。チャーチル元首相、ウィンザー公、チャップリンをはじめ世界中に顧客をもち、世界一有名な諜報部員、ジェームズ・ボンドが愛用したシャツとしても有名だ。
実はタイミングがよいことに、今シーズン、ギャツビーをテーマにしたモデルが発表された。ブルーを基調としたボディに白のやや大きめのラウンドカラーに仕上げたドレスシャツだ。同店のシャツの襟型は「ターンブルカット」と呼ばれ、襟元から剣先にかけてゆるやかなS字ラインを描くレギュラータイプが代表だが、これとは趣を異にする。ボディと襟の色が違うクレリックカラーが、この小説が書かれた1920年代のスタイルを彷彿させる。袖はもちろんクラシックなダブルカフスで、ギャツビーと同じくカフリンクスをつけて着こなしてみたいものだ。素材は繊細なコットンで、上品さとエレガントな味わいを醸し出している。同時に発表されたネクタイも素材にシルクを採用し、伝統的な古典柄が採用されている。ギャツビーファンならずとも、手に入れておきたいアイテムではないだろうか。
問い合わせ先/ヴァルカナイズ・ロンドン TEL:03-5464-5255