1920年代のリゾートスタイルを象徴する白のスーツ【華麗なるギャツビー編】
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一村上春樹は『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』(中公文庫)で、アメリカ文学史の中でもっともアメリカらしい小説を挙げるとすれば、メルヴィルの『白鯨』とサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』と、フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』が選ばれるのではないだろうかと書く。小説が発表されたのは1925年で、日本ではまだ大正時代のこと。舞台になったのは1922年、ニューヨークの東に位置するロングアイランド島のウェストエッグという架空の街だ。この作品は発表と同時に評判となり、翌26年には早くもブロードウェイの演劇に、同26年、49年、74年、そして2013年と、なんと4度も映画化されている。この4作のなかで決定版とされるのが、74年に公開された『華麗なるギャツビー』ではないだろうか。主演のロバート・レッドフォードはこのとき38歳で、役者として脂が乗り切っているころ。衣装協力をしたのがアメリカントラッドの大御所ラルフ・ローレンで、メンズスタイルの黄金時代と言われた1920年代のスタイルを見事に再現している。今回は1974年に発表された『華麗なるギャツビー』を題材に、クラシックなメンズウェアの名品を追う。
フィッツジェラルドが書いた小説を映画化した『華麗なるギャツビー』は、アメリカ中西部の貧しい家庭に生まれたジェイ・ギャツビー(ロバート・レッドフォード)がやがて大富豪となり、貧しい故に結ばれることができなかった恋人デイジー(ミア・ファロー)との再会を夢見て、彼女が住む邸宅の海峡を隔てた場所にある豪邸に住む。そして、そこに彼女がもしかしたら現れるのではないかと、連夜のごとく豪壮なパーティを開く。そんな筋立てだ。
小説でも映画でも物語の語り手となるのが、ギャツビー邸の隣に住み、デイジーの友人でもあったニック・キャラウェイ(サム・ウォーターストン)。ギャツビーとデイジーの再会はパーティではなくニックの家で実現するが、このときギャツビーが着ていたのがベストも含めて全身真っ白のスーツだ。もちろんギャツビーのスタイルを象徴するものであるが、当時の紳士たちのリゾートスタイルで全身白は当たり前のこと。映画の冒頭でこの町にやってきたニックも上下とも白のスーツ。彼は証券会社の仕事をしていたが、それほど裕福ではなかったはず。それでもそんなスタイルだ。全身白でなくても、ブレザーの下には真っ白なパンツをはき、白やコンビの靴を履くというのが1920年代のリゾート地における一般的なスタイルだった。ちなみにキャスケットを被り白い服を着たギャツビーと、ラベンダー色の服を着るデイジーの姿が映画のポスターにもなっている。
ギャツビーが着ていた白のスーツを連想させるモデルをイタリアのブランドで見つけた。イタリア最南のプーリア州で1960年代に創業したブランドで、タリアトーレというブランド名は創業者の祖父のニックネームであり、イタリア語で裁断士を意味する。その名の通り、見事なカッティング技術と職人的な縫製で立体的なフォルムをつくり、着る人を最大限に美しく見せる。まさにデイジーとの出会いを夢見て、精進してきたギャツビーに相応しいスーツではないか。ラペルもやや広めで、襟の形状も映画と同じくピークドラペルのデザイン。素材はスーパー120Sという極上のウール。クラシックさの極みといった佇まいをもつスーツだ。