悪ガキ4人組の名シーンを彷彿させる、武骨なミリタリーブーツ
文:小暮昌弘(LOST & FOUND) 写真:宇田川 淳 スタイリング:井藤成一映画『時計じかけのオレンジ』でギャング団「ドルーグ」たちが話すのは、「ナッドサット語」と名付けられた言葉。言語学者でもあった原作者のバージェスが創造した言語で、ロンドンの方言とロシア語とを組み合わせたものだが、映画の前半で、ナッドサット語で「アルトラ(超暴力)を放出する」と叫んだアレックスたちは郊外の邸宅に押し入り、暴力の限りを尽くす。
彼は名曲『雨に唄えば』を歌いながら、屋敷の主人を靴で蹴りつける。ドルーグたちが揃って履いているのは、黒のハイカットのブーツだ。この後、仲間同士で歩くシーンでも彼らのブーツが大写しになるが、英国出自の映画らしく、無骨でミリタリーテイストのモデルを履いていることがわかる。
このイメージに近いブーツを探してみた。サンダースのブーツはどうだろうか。サンダースは、英国靴の聖地ノーザンプトンで1873年、ウィリアム・サンダースとトーマス・サンダース兄弟によって設立された老舗。上の写真の「ミリタリーダービーブーツ」は、英国国防省のオフィシャルサプライヤーであった同社が所蔵していたミリタリーシューズのラスト(木型)をもとに製作した、「ミリタリーコレクション」の中の一足だ。
映画でアレックスたちが履いていたのはプレーントウのデザインだが、こちらはよりクラシックなストレートチップ。しかし、無骨で正当的な佇まいは、彼らが履いていたブーツと同じだ。英国の伝統的な手法であるグッドイヤー製法で仕立てられ、ポリッシュドレザーを使った素材が深みある光沢を放つ、まさに一生もののブーツだ。それは、この映画の永遠の輝きと同じものだと断言できよう。
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