アタッシェケースを再現したミニバッグを肩に下げる、ダン...
vol.90

アタッシェケースを再現したミニバッグを肩に下げる、ダンヒル流の現代ジェントルマン

構成、文:高橋一史 写真:青木和也 | 

ショルダーストラップがついた小型の革ハードケース、「ロックバッグ」。サイズはH17×W11.2×D(底)4.6cm。 ¥237,600(税込)/ダンヒル(TEL:03-4335-1755)

戦国武将の装いに興味津々でも、甲冑を着て街中を歩く人はいない。これは極端な例だが、時代に合わない服飾品を身に着けて暮らすのは難しいものだ。メンズウエアの定型を生んだこの100年間での定番品も例外でなく、過去の遺物になりつつある。いまアメリカの1930年代のスーツをそのまま着たら、シカゴのギャングのコスプレに思われるかもしれない。男性が憧れてきたイギリスの紳士服もしかり。3ピーススーツもトレンチコートも中折ハットも、いまの時代に馴染ませるには新しい着方の工夫が必要だ。スポーティな服装が世の主流になるにつれ、「好きなモノを身に着けにくくなった」と感じている人は多いだろう。

こうした気運を受け、老舗ブランドが “モダナイズ” に取り組んでいる。元のアイテムの魅力や良さを残しつつ、現代的にアレンジするデザイン手法だ。ここに紹介するダンヒルのショルダーバッグも、2020年秋に登場したモダナイズの一例。鍵でロックする屈強なアタッシェケースのエッセンスが詰め込まれた、その名も「ロックバッグ」だ。机の上にドサッとアタッシェケースを置き、鍵をガチャッと開く儀式のごとく趣のある所作を日常生活の中で愉しめる。

小型でも重厚感があり、スーツやブレザーと相性がいい。クラシカルなカメラバッグにも見える多彩な表情も魅力だ。

スマホとカードの普及により持ち歩く荷物が減り、手ぶら気分で過ごせるミニバッグの愛用者が増えている。アクセサリーとして空のまま身につける人もいるほどの人気だ。その中でメンズウエアの歴史から着想されたロックバッグは、流行を越えたネオ・ビンテージになり得るポテンシャルを秘めている。タイドアップしたスーツ姿に斜めがけしても、落ち着きと高級感は損なわれず、軽快な洒落たムードが現れる。黒パンツ+白Tシャツ+スニーカーといった旬のスポーツスタイルにもしっくりと馴染む。最先端なのに保守、保守なのに最先端という絶妙なバランス感覚。使い込んで傷だらけになっても味わいが増しそうな、新定番と呼べる男のギアなのだ。

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