ファッションの二極化の先に現れる、「D2C」というブランドビジネスの可能性。

ファッションの二極化の先に現れる、「D2C」というブランドビジネスの可能性。

文:海老原光宏

コロナ禍で、ビジネスモデルの転換を迫られているファッション業界。この環境変化に対する解答は、消費者に直接届けるD2Cビジネスかもしれない。

緊急事態宣言から解放されたものの、人々が仕事や食事に出歩くことで新型コロナウイルス感染が拡大し猛威を振るっているのは周知の事実。自粛要請は発布されていないが積極的に外出する気が起こらないのが人々の本音だろう。コロナショックは観光業、外食産業など人々が出かけなければ収益を上げられない業種に多大な影響を与えている。そして、ECが発達したといえど、店舗営業がメインのファッションブランドも同様だ。

ファッション業界では、パリ、ミラノなどのファッションウィーク開催地が発表をデジタルに変更。ジャーナリストやバイヤーはウェブでのプレゼンテーションでコレクションを吟味することが続いている。日々のニュースではアパレル企業の倒産や店舗の閉鎖、経営の見直しなどが伝えられる。景気後退懸念や人が現地に足を運べないことで、バイヤーからブランドへの注文は減ると予想される。

こういった中で、ファッションメーカーが卸しを仲介せず、直接消費者にコレクションを届けるようなビジネス設計が加速するのではないだろうか。いわゆるD2C(Direct to Consumer)である。D2Cは、スーツケースのアウエイや寝具のキャスパーなどアメリカのスタートアップで隆盛を極め、近年日本でも散見されるようになったブランドビジネスの方法だ。SNSなどでフォロワーを多く抱えるインフルエンサーがブランドを立ち上げ、直接フォロワーに販売するというケースが多いが、D2Cの本質はそこではない。SNS、デジタルマーケティングで顧客と密接にコミュニケーションを取ることができ、中間業者を排したストレートな体制が可能、つまり同品質のものをより安く市場に提供でき、データ分析によるクイックな経営判断を下せる、というのがいわゆるスタートアップ文脈で語られるD2Cだ。製造小売業(SPA)と近いが、DX(デジタルトランスフォーメーション)している点がSPAとは全く異なるだろう。

2020年7月、職人によるレザーグッズのD2Cブランド、クラフストがローンチした。財布、キーケース、名刺入れなどシンプルでベーシックなアイテムを一通りラインアップ。堅牢な雰囲気漂う外装レザーはコードバンを使用。オーダーメイドにも対応してくれる。

コロナ禍の国内で、あるD2Cブランドが立ち上がった。元デジタルマーケターが経営する、レザーグッズブランドのクラフストだ。代表取締役の久保順也氏は以前、ベンチャーキャピタルで国内レザーブランドの経営に従事し、ウェブ戦略を担っていた。クラフストは職人を抱え、蔵前に工房併設店舗を構え、直接消費者に販売する。アイテムのメンテナンスを基本永久無料補償とし、「いいものを長く使い続けていく体験」「修理しながら使い続けていく体験」を謳う。ものづくりだけでなく、購入後の面倒まで見るのだ。LTV=顧客生涯価値を考えるウェブマーケティングの考え方に近い。

「修理に対する需要はありますが、通常のオペレーションだとブランドはやりたがらない。なぜなら、実際の修理時間は10分程度でも、工房を設立していないブランドだと外注で時間がかかってしまうから」久保氏はそう話した後に、工房併設により客の声が聞こえることで職人と迅速に商品開発ができるという利点もあると加えた。顧客のリクエストによって、カスタムメイドにも応えるという。面白いのはD2Cらしく、職人に加えマーケター、エンジニアも業務委託で抱えていること。集客や生産をデジタルで賄うのだ。

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