ニューヨーク在住の日本人デザイナー大丸隆平によるブランド「オーバーコート」。今回ピックアップしたのは、数々のラグジュアリーブランドのロゴなどを手がけてきた世界的なアートディレクター、ピータ・マイルズとのコラボレーションアイテム。鮮やかな色使いと軽やかな生地が、春らしい気分を運んでくれる逸品だ。
「先行きが不透明な昨今、人々の生活に少しでも彩りを添えられたら」という願いが込められた一着。素材はキュプラ。テロッとした素材を用いてあり、着用すればストンと落ちるような美しいシルエットを描く。淡いグリーンやピンクなどの色みと相まって、優雅で軽快なムードを演出するにはもってこいの仕上がりだ。もちろん単体での着用もおすすめ。シャツは、ブラックやネイビーなど手持ちのジャケットのインナーとして用いれば、新鮮に見せられる。パンツは夏場、Tシャツ一枚で過ごすような時期に主役級の活躍が見込める。
大丸は、米副大統領カラマ・ハリスが昨年の選挙期間中に着用したスーツを作成したことでも話題となった。クオリティは申し分なし。このような時勢を明るく照らす、気分を上げてくれるアイテムとなっている。

いまでこそ当たり前のように謳われるようになった”サステイナブル”という言葉だが、「ステラ マッカートニー」はラグジュアリーセグメントでの先駆者的存在だ。

スタートは2001年。すでに「クロエ」のクリエイティブ・ディレクターとして若き才華を発揮していたステラ・マッカートニーが立ち上げたブランドで、特筆すべきは立ち上げ当初からサステナイブルな姿勢を貫いてきたこと。レザーやファーを使用せず、また森林保護活動のサポートなども行ってきた。ここ数年は、天然素材であればオーガニックコットン、トレーサブルウール、再生カシミヤなどを使用。化繊素材は、再生ナイロン（エコニール）にシフトし、素材の多くを循環可能なものへとシフトさせている。

コロナ禍でも独自のステートメント、マッカートニー A to Zマニフェスト（AからZまで、環境に配慮したアクションを行うこと）を発表、今回の春夏コレクションは、ブランド史上最も“地球に優しい”ものになった。なかでも目玉となるのは、アーティスト奈良美智とのコラボレーションアイテムだ。

アートとサブカルチャーを結びつけるような作風――生意気で反抗的なイラストで世界的な評価を受けているのは周知の通り。今回は「ステラ マッカートニー」のブランド精神と、奈良氏の作品が持つ産業化やグローバル化に批判的なアティチュードが重なったことでコラボレーションが実現した。

奈良のスケッチが、Tシャツ、パーカ、シャツやトラウザーズ、ショートパンツにまであしらわれた。当のバッグには「We are punks（私たちはパンク）」「Change the history（歴史を変えよう）」「Don’t waste another day!（１日も無駄にするな！）」といったフレーズがあしらわれている。小物類の収納、装いのアクセントのみならず、持つだけで直接的なメッセージを発信できる。トートバッグはマチ付きで容量もたっぷり。ミニバッグはノートPCがすっぽりと収まるサイズで、ワーキングシーンでも活躍するだろう。

話題性も十分で、話のタネにもなる。ちなみにこのバッグは3月10日～23日に伊勢丹新宿店でのポップアップストアの限定商品、時代に即したコラボアイテムの登場である。

ディオールの根底には、“テイラード”への矜持がある。 それはアーティスティック ディレクターにキム・ジョーンズを迎え入れてからも変わらず、コレクションには伝統的なテイラリングの魅力を伝えるアイテムが必ずある。今回ピックアップしたのは新たなカプセルコレクション「モダン テイラリング」のセットアップだ。

ややボクシーなシルエットに、コンパクトな着丈。スポーティな印象を与えつつも、ショルダーや胸には芯地を入れて、マスキュリンな表情を引き出している。素材は、軽やかながら一目で高級感を訴えかけてくる上質なウールを使用。昨今流行中のシャカシャカ素材のセットアップを否定するわけではないが、やはり王道の仕立てのよさがうかがえるアイテムは、いつの時代も変わらないカッコよさを伝えてくれるものだ。

とはいえアップデートされている要素もあって、トラウザーズもスポーティでモダン。シャーリング仕様になったウエストとドローコードに加え、ギャザーを寄せたリブの裾が軽快さを後押しする。それでも中央にはクリースステッチが入っており、ドレスの要素がしっかりとミックスされている。

バリエーションとして、Vゾーンが詰まった3つボタンジャケットや、ウールで仕立てたハリントンジャケットなども展開。パンツはストレートシルエットのものも用意されている。

技術と伝統を感じさせつつも、現代的。ディオールの「モダン テイラリング」はチェックしておきたい一着だ。

昨年11月にリオープンし、話題を呼んだバレンシアガの新たな旗艦店「バレンシアガ 青山」。このたび、開店を祝うべく青山店でしか手に入らない限定コレクションがリリースされた。本コレクションには「Cut-Up Capsule」という別名が与えられているが、その名の通りご覧のパーカは、文学や音楽でいうカットアップ、バラバラにしたものを組み立て直すという手法でつくられている。

モード界の寵児と呼ばれたデムナ・ヴァザリアがアーティスティック・ディレクターに就任し早5年。パーカはブランドのアイコンとなっていたわけだが、このタイミングでセルフサンプリングを行うこととなった。ここに使われているロゴは2016年秋冬以降のもの。バーニー・サンダースのロゴのような、ポリティカルキャンペーンロゴ（2017年秋冬）や、インターロッキング Bを反転させたロゴ（2019年秋）、エッフェル塔をフィーチャーしたもの（2020春）など、これまでアイテムを彩ってきた“BALENCIAGA”の文字がカットアップされて表現されている。胸のロゴが中央に来るようにデザインされて（縫い合わせて）いるので、裾は自然とランダムな処理になり、そのラフさが力の抜けた表情を生み出している。シルエットもかなりのオーバーサイズで、旬なリラックス感を演出するにはもってこいだ。

オンラインでの販売はなく、店舗でしか手に入れることができないという点も物欲をくすぐる。パーカの他に、ロンTやTシャツなどもラインナップ。同じように“カットアップ”の手法で表現されたもので、こちらもファン垂涎のアイテムとなっている。

サステナブルの観点でファッションを語る際には、2018年に報じられた売れ残り商品の焼却問題について触れる必要がある。バーバリーをはじめラグジュアリーブランドのほとんどが同様のことを行っていたが、これは触れてはならない“暗黙の了解”だった。問題が明るみに出てからのバーバリーの対応は素早く、同社は即座に姿勢を改めた。2カ月後にはCEOが「現代のラグジュアリーとは社会的、環境的な責任を伴う」とコメントし、廃棄処分の即日禁止、毛皮の撤廃を決めた（なお廃棄処分を禁止したブランドはバーバリーが初めてだ）。さらに社会復帰を後押しする団体への衣装提供や、ファッションスクールへの残反の寄付など、さまざまな面で持続可能なビジネススタイルを模索している。

また、彼らの動きによって真っ先に動いたのがフランスだった。2023年までに売れ残りの洋服や化粧品、家電などの廃棄を禁止する法律が制定されたのだ。これはかなり大きなインパクトがあり、現在ではラグジュアリーブランドが業界を上げて、変革のために動き始めている。

今シーズンのキャンペーンムービーは、こういったサスティナブルな姿勢への変革を象徴するような内容になっている。創業者のトーマス・バーバリーが雨風をしのぐ衣服を考案してから160年以上が経ち、急激な気候変動に合わせて、映像内では雨ではなく大粒の雹が降っている。そんな悪天候をものともせず、BGMの『雨に唄えば』に乗せて、若いダンサーたちが力強く躍動する。このムービーは、ブランドの出自をめぐるストーリーを喚起させつつ、環境問題に対するメッセージへと昇華させていて、SNSでも話題となった。

この映像内でダンサーの一人が着ているがこのジャケットだ。表地はリサイクルナイロン、中綿も使用済みの商品から回収したリサイクルダウンが使われている。1920年代に誕生し、かつては裏地であったバーバリーチェックを表地に使用。英国らしい反骨的なマインドもうかがえる。加えて映像内では、トレンチコートの上に羽織る型破りなレイヤードで見せている。裏はブラックの単色で、リバーシブル仕様。ボトムスは同色かチェックの色を拾った黒のトラウザーズで大人っぽく着こなすのが正攻法だ。

見た目のかっこよさは絶対に譲れない。けれどもいまは服に新たな価値をもたせる動きが進んでいるので、カッコよさの定義もこれからどんどん変わっていくだろう。まずは動画をチェックして欲しい。おなじみのバーバリーチェックが、ひと味違うものとして見えるはずだ。