囲炉裏を備えた1階の居間。かつては反物屋だったという歴史からインスパイアされ、内装は反物屋を再現。帳簿台や糸巻機、反物見本、草木染めの染料などがユニークな空間を演出する。
秋田新幹線の停車駅で、東北の駅百選にも認定された風情漂う角館。和のゐへは、改札を出て隣接するホテルフォルクローロ角館でチェックインを済ませると、目的の蔵まで送迎してもらえる。3つの蔵は「西宮家 武士蔵」「西宮家 ガッコ蔵」「反物蔵」と名付けられ、築100年を超える蔵が歩んできた物語を残し、宿として生まれ変わった。「営みが保存された蔵」をコンセプトに、当時の暮らしを体感できる。
たとえば武士蔵は、佐竹氏の家臣だった西宮家の敷地内にある蔵を大胆にリノベーションしたもの。西宮家の先祖が高名な武士であったことから、鎧兜や陣幕などが飾られ、下級武士の手内職から発展した伝統工芸の樺細工(かばざいく)に関する展示スペースも設けられている。ガッコ蔵も同じく西宮家の敷地内にあり、秋田弁で漬物を意味する「ガッコ」の名の通り、秋田の発酵文化を感じさせる仕掛けが随所に配された。一方、反物蔵はもともと反物屋だったという江戸時代末期の蔵を改装したもの。さながら、それぞれの蔵自体がちょっとしたミュージアムのようだ。
寝室には「紋鳥だすき」「三重襷」「亀甲若松つる」といった反物の柄をモチーフにした作品が飾られる。畳の間には伝承200年以上の絹織物「秋田八丈」も展示。
反物蔵は角館観光のメインストリートとなる武家屋敷通りの手前という好立地。蔵自体は江戸末期の建造と伝えられている。
土間から重厚な扉を抜けて足を一歩踏み入れると、木と漆喰による懐かしい香りに包まれる。柱や梁、天井、蔵扉などは100年以上前の建築当時のまま。一方、風呂や洗面スペースなどは新たに増設されているので、ホテルとしての居心地も申し分ない。
和のゐでは「蔵のある町自体も体感してほしい」との思いから、夕食は街の飲食店を案内している。徒歩圏内には料亭や居酒屋とともに、ホテルの朝食用の味噌を提供する1853年創業の「安藤醸造本店」や、樺細工の工芸品を手がける「藤木伝四郎商店」などが点在し、街歩きも楽しい。春にはしだれ桜が咲き誇り、秋には紅葉が美しく彩るのも見ものだ。蔵に戻り、それぞれに趣向を凝らした風呂に浸かったら、囲炉裏端に座って1689年創業の「鈴木酒造店」が特別につくった日本酒をぐびりといきたい。和のゐは、蔵というフィルターを通して、角館に流れる物語をそっと語りかけてくれる宿なのだ。
ガッコ蔵の浴槽はその名の通り、ガッコ(漬物)を貯蔵する樽をイメージしたもの。春には上部の窓越しに、西宮家の庭に咲くしだれ桜を観賞することも可能。
1919年築のガッコ蔵は、実際に西宮家で漬物を保存するための蔵として活用されてきた。土間には藁靴や箱ぞりなど、雪国の生活道具が置かれている。
3棟すべてシモンズ製ベッドを置き、その上にエアウィーブを敷いた。畳の間の敷布団としてマニフレックスのマットレスを用意。ガッコ蔵は4名まで、武士蔵と反物蔵は6名まで宿泊可。
囲炉裏の上にあるのは、大根を木の香りで燻りあげる秋田名物の「いぶりガッコ」をモチーフにしたアートワーク。実際には大根の代わりに桜の枝が使用されている。