アルテックの「スツール 60」と「スツール E60」。左の三本脚タイプは脚と脚の間隔が広く、無限にスタッキングが可能。右はより安定する四本脚タイプで、6脚スタックすることができる。後から発売されたモデルだ。
「スツール 60は、アアルトの『いいものを安く作りみんなが使えるようにする』というモダニズム的な思想がストレートに反映され、とてもシンプルかつ合理的にできている歴史的な名作です。けれども多様性に重きが置かれるようになった現代では、そのような均質なデザインだけが必ずしも暮らしにフィットするとは限らないと思ったんです」
元木はアアルトの考えを尊重しながらも「スツール 60」を下敷きに機能をひとつ加えることで、多様な個性をもつスツールをつくることにしたのだ。
アルテック「スツール 60」のL-レッグ。
今回のプロジェクトのために行ったリサーチから、元木は「スツール 60」の特徴をこう語る。「アアルトは、L-レッグという特許技術を開発したんですが、合板ではなく無垢のバーチ材に切れ目を入れて曲げて、そこに薄くスライスした木を入れて固定しているんです。こうすることで、長年の使用に耐えうる強度と、さまざまな面に接着できる利便性を持ち合わせています」
元木は、「スツール 60」のジェネリック品も自分たちの足で収集している。IKEAやニトリをはじめ、国内でこれまでに見つけたのは8種類ほど。展示でもあえてそういったジェネリック品にも取り付けられるパーツをデザインしている。
アイデアはPCを使う、コーヒーを飲むなど機能から考えたり、形から考えたりと項目を立て、現在350種類以上のバリエーションがあるそうだ。
左からニトリ、アルテック、IKEAのスツール。裏面を見ると、ビスの打ち方などがそれぞれ異なり、各企業の考え方が色濃く反映されるという。
このプロジェクトを通して、元木はアアルトがこのスツールに込めた考えを再確認したという。
「そもそもスタッキングスツールは、スタッキングが必要な空間で使われるもの。そういった空間は、何にでも使える場所、要するに機能が定まっていないことが多いんです。PCテーブルが付いたスツールも、机としては不十分だけど、イベントスペースにあると便利なものになる。デザインをしていくうちに、用途が固定されていない多義的なものはとても”豊かさ”を生むことに気づきました。そして同じことをアアルトも考えていたのではと思います」
「スツール 60」本来の形を残しながら多彩に展開していくアイデアは、アアルトがデザインした1933年に比べて私たちの生活がどれだけ多様になったかを示唆しているようにも思える。引き続きInstagramで作品をチェックしていきたい。
『Hackability of The Stool』は本来MISTLETOE OF TOKYOで100脚全てが展示される予定だった。Instagramでの更新は9月30日までつづく。photo: Kenta Hasegawa