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その場にふさわしい形を、
少ない手数で実現する。
建物の設計という領域にとどまらない建築家が増えている。家具やプロダクトのデザイン、展覧会の会場構成などで活躍する建築家の元木大輔さんもまた、領域を超える建築家のひとりだ。元木さんのこうしたボーダーレスな感覚は、音楽に養われたものかもしれないという。
「幼い頃からバイオリンを習っていたのですが、ある時期にパンク・ロックと出合い、その自由さに音楽表現のもつ奥行きを感じました。それから幅広く音楽を聴くようになったんです」
音楽を入り口にデザインや美術、映画にも興味をもった。そこで、これらすべてに関係する建築を学ぼうと進学を決めたという。そんな元木さんが空間設計で主眼に置くのは、「さまざまなノイズを受け入れ、楽しめる空間にしたい」という思いだ。
「建築には多様な楽しみ方がありますが、その形をつくることでなにが起きるかに関心があります。たとえば道にベンチがあれば座るという行為を促し、公園のような公共性も生まれます」
また元木さんはその場を引き立てるために、少ない手数でものをつくりたいと言う。たとえば歩道脇のガードレールの構造を使ってベンチをつくれば、ただのガードレールが親しみやすい風景に見えてきたり、そこに新たな価値を生むことができる。
「建築設計では敷地に対し、ふさわしい形を考えます。プロダクトであるベンチも環境と組み合わせると建築的に捉えられる。近作ではバブル期に建てられたビルの豪奢な内装を残しながら、リノベーションを行いました。素材のよさを残して再生を試みたプロジェクトです」
昨年行われた「アートフォト東京」では、金メッキ塗装を施した単管パイプで会場を構成した。数日で終わる会場ゆえに、すぐに解体できるという合理性をもたせつつ、廃墟にハイブロウなアート作品が並ぶという混沌とした状態を受け入れる、洒脱なプラットフォームを目指した。
「ここでは建築よりもプロダクト的な視点で、赤提灯の飲み屋とギャラリーを融合させるような構成を行いました。僕はこれまでに知らなかったものや違うものに出合いたいという欲求が強い。好きなミュージシャンの新譜を楽しみにしていた頃から変わっていな
いのかもしれません」
「アートフォト東京」でも用いた金メッキ仕上げの単管パイプを使い、事務所でインスタレーションを行った際の会場風景。photo:Takashi Fujikawa (Alloposidae)
1980年代に建てられたビルを、当時の華美な装飾やディテールを取り込みながら一棟すべてリノベーションしたプロジェクト。photo:Kenta Hasegawa