保存棟と新築棟をつなぐ2階廊下から、中2階と2階の開放感あふれる「ピオピコ」を望む。東西のミックスを間近に見られる場所だ。
こうした背景から、注目度は当然高いが、その魅力をシンプルに語るならば、楽しさと居心地のよさに尽きる。そのポイントを見ていこう。
インテリアは、エースホテルの長年のパートナーで、ロサンゼルスを拠点とするデザインチーム、コミューン・デザインが手がけた。コンセプトは「イースト・ミーツ・ウエスト」、すなわち東西の出合い。日本文化の中心地である京都へのリスペクトを込めて、日本とアメリカ西海岸からさまざまなアーティストや職人が集められた。98歳で現役の染色工芸家、柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)はその代表で、各部屋にはオリジナルタペストリーが飾られ、館内のアルファベットや数字のデザインも行った。東西のクリエイターとのコラボレーションはアートだけでなく、空間やディテールにまでおよぶ。
客室は保存棟に26、新築棟に187の合計213室。スタンダードからスイートまでバラエティに富んでいる。特にスイートは、保存棟の出窓を活かしたリビングエリアをもつ「エーススイート」、畳敷きの小上がりに布団を敷く旅館風「たたみスイート」、館内一広い98㎡の「ロフトスイート」と多彩。真新しい新築棟と歴史を感じさせる保存棟を泊まり比べるのも一興だ。
前述の柚木沙弥郎のアートワークの他、ミナ ペルホネンのカーテンとベッドランプも全客室に共通。木材や漆喰、和紙といった和の素材をベースに、家具や生地の色調を揃え、温みのある空間に仕上がっている。全室にティボリのラジオ、一部の部屋にティアックのレコードプレーヤーやエピフォンのギターが置かれているのも、アートと音楽を大切にするエースホテルならではの演出だ。
姉小路通から見た新風館。左がホテル正面玄関のある新築棟。新築棟外装には木材、金属ルーバー、墨色のコンクリートを用い、保存棟や街並みと自然に馴染ませている。
1926年竣工の京都中央電話局。四角い箱にアーチ状の窓を配し、意匠の異なるタイル貼りを施した、重厚かつ繊細な名建築。廃局後も用途変更を経て街のランドマークに。
レストランは2軒、薪窯とルーフトップバーを備えたイタリアン「ミスター・モーリスズ・イタリアン」とタコス&バーラウンジ「ピオピコ」だ。ともに西海岸の風を感じるようなオープンな雰囲気で、アメリカで活躍するシェフの監修の下、地元の食材を取り入れたオリジナルメニューが並ぶ。
エースホテルの顔とも言えるロビーは、ホテルと宿泊客、さらに地元コミュニティをつなぐ場として24時間開放され、自由に過ごすことができるのが特徴だ。デスクとチェア、座り心地のよいソファを配し、電源とWi-Fiを完備。併設の「スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ」で購入したコーヒーやドーナツを持ち込んでもいい。
そして、節度のあるフレンドリーな接客をするスタッフ。楽しげに働く様子にこちらの心まで軽くなるようだ。
ここでの時間は非日常でなく、日常の延長。館内のあちこちで出合うアートやクラフトは好奇心を刺激し、どこにいても大切な友人にもてなされているような気安さがあり寛げる。だから、楽しくて居心地がいいのだ。
カルチャー発信地として街を活性化させるのがエースホテルの真骨頂。新築棟3階、屋上庭園につながるメインダイニングが始動するグランドオープンが待ち遠しい。
隈研吾の設計による大胆な木組みと、コミューン・デザインが手がけたシャンデリアが美しく調和するロビー。銅板のレセプションカウンターをスーベニアショップが囲む。
新築棟のロビーから保存棟の「スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ」への入り口。ポットを描いた大きなタペストリーは柚木沙弥郎作。レンガの壁に風情が漂う。