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新型コロナウイルスの感染拡大が本格化してから、早くも1年が経った。ウイルスから身を守るために手を洗うことは有効だが、「恐怖」から心を守るためにはどうすればいいのだろうか。日本赤十字社の動画は、その心構えをアニメーションで伝える。
「この作品は、新型コロナウイルスに対応する最初の緊急事態宣言(2020年4月7日発出)の直後、2020年4月21日に公開されました。まず、その反応のスピードに驚きます。東日本大震災のときに『こうした災いの中でポジティブなメッセージを発信すると目立つ』ということを発見してしまった広告業界のクリエイターたちの、なかば売名行為のような作品が目立った中、この作品は、感染予防のみにとどまらず、その後の風評被害のような人間の内面や感情が引き起こす二次災害の予防にまで言及した佳作です。これこそが真に東日本大震災の教訓を活かした作品として、高く評価したいと思います。地味な作品ですが、コピーやイラストレーションも実によく練られており、そのレベルの高さに敬服するしかありません」
原野守弘●1971年、静岡県生まれ。電通、ドリル、PARTYを経て、2012年に株式会社もりを設立、代表を務める。代表作に、NTTドコモ「森の木琴」、OK GoのMV「 I Won't Let You Down」、ポーラのリクルート広告、ゴディバ「日本は、義理チョコをやめよう。」など。2017年に「Pen クリエイター・アワード」を受賞。
未曾有の感染病とともに生きることを余儀なくされた2020年。だからこそ、人間のもつ想像力が試された1年だったとも言える。原野さんは著書『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』(クロスメディア・パブリッシング)のなかで「ブランディング」について言及している。
「ブランディングについて、僕は3つのポイントから考えます。ひとつは『ちょっといい未来を語る』ということ。たとえば今回トップに挙げたナイキのCMのように、世の中がどのようになったらいいかを表現すること。ブランドがどんな未来を思い描いているのかという、世の中の見立てを表現することが大切です。2番目は『個人的に語れ』ということ。広告って、ターゲットをリサーチするマーケティングが当たり前と思われていますが、僕はそれは正解ではないと思っている。10代の女性も50代の男性も、人間が感じることって案外同じなんじゃないか。広告は基本的に人の心を動かすもので、そのためには個人対個人の共感に訴えるしかない。自分が思ったこと、感じたことは世の中の人も同じだと信じてつくると、結果的にいいものができます。3番目は『地声で語れ』です。会社自体がもっているDNAやスピリットが的確に表現されているから、受け取った人は心を動かされる。これを我々は『ブランドボイス』と呼んでいます。人間は声にアイデンティティを感じる生き物なので、広告をつくる時はその地声で伝えないと、受け手は騙されているような気持ちになってしまうんです」
どんな状況においても人間が感じ取る「気持ち」をまっすぐに見据え、遊び心をもって明るい未来へと背中を押してくれる広告に、私たちは勇気をもらうのだ。