藤子不二雄(A)が語る、映画『トキワ荘の青春』と漫画家仲間たちとの思い出

藤子不二雄(A)が語る、映画『トキワ荘の青春』と漫画家仲間たちとの思い出

文:稲田豊史

©1995/2020 Culture Entertainment Co., Ltd

1995年に公開された故・市川準監督の名編『トキワ荘の青春』のデジタルリマスター版が、2021年2月の劇場公開を経て、9月にブルーレイ版として発売される。東京都豊島区にあった木造2階建てアパート「トキワ荘」は、知る人ぞ知る漫画の“聖地”。1952年から1982年にかけて存在し、特に1950年代には、手塚治虫、藤子不二雄(安孫子素雄&藤本弘)、石森章太郎、赤塚不二夫といった、のちの日本漫画界を背負うレジェンドたちが住まい、創作に励んでいた。その住人のひとりだった藤子不二雄A(安孫子素雄)に、映画『トキワ荘の青春』に絡めて当時の話を聞いた。

1934年富山県氷見市生まれ、87歳。1951年より漫画制作を始める。主な著作は『忍者ハットリくん』、『怪物くん』、『プロゴルファー猿』、『笑ゥせぇるすまん』など。1990年自作マンガをもとに映画「少年時代」を製作、日本アカデミー賞他多数受賞。2005年文部科学大臣賞受賞2008年旭日小綬章受章。©藤子スタジオ

「『トキワ荘の青春』は僕の思い出話ということではなく、青春物語としても大傑作だと思っています。何年かぶりに観たけど、とても切ない気持ちになって泣けました」

舞台は1950年代初頭のトキワ荘。若き漫画家たちの苦悩と焦り、貧しくも輝ける日々を、抑えの効いた静謐なタッチと昭和歌謡をバックに綴る、ノスタルジックな青春映画だ。安孫子素雄(のちの藤子不二雄(A))と藤本弘(のちの藤子・F・不二雄)が上京し、トキワ荘に住みはじめるくだりも描かれる。

映画に登場する手塚治虫(北村想)やトキワ荘の住人は、若き漫画家たちの兄貴分である寺田ヒロオ(本木雅弘)ほか、赤塚不二夫(大森嘉之)、森安直哉(古田新太)、鈴木伸一(生瀬勝久)、安孫子素雄(鈴木卓爾)、藤本弘(阿部サダヲ)、石森章太郎(さとうこうじ)、手塚治虫(北村想)。藤子(A)と鈴木以外は、全員鬼籍に入っている。

「皆、田舎から出てきたばかりだから、あまり外の人と付き合ったりしない。わりと自分の漫画の世界に入り込んでいる、エキセントリックな人間ばかりでした。だた、僕は地元・高岡市の新聞社に2年間勤めていたこともあって、ペラペラしゃべるお調子者。みんなで“新漫画党”というグループを結成したんですけど、兄貴分のテラさん(寺田ヒロオ)からも、『安孫子がいないと話がまとまらない』って言われてね。僕がずっと司会みたいなことをしていました。だから、映画では僕の役を鈴木卓爾さんが寡黙でカッコ良く演じてくれているんですが、実際はちょっと違うんです(笑)。僕としては非常に満足ですけれど」

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