Vol.3 ショートフィルムとつながる文学賞「ブックショートアワード」 ~小説と映画の幸せな関係~
こんにちは。別所哲也です。もう夏休み映画の時期だなあと考えていたら、娘とディズニー映画を見た記憶が蘇りました。『アナと雪の女王』公開時は、僕の娘も漏れなく「レット・イット・ゴー」を口ずさんでいて何とも微笑ましかったのですが、そういう僕も雪の妖精オラフに魅了されました。アナとエルサという、もともと仲のいい姉妹がすれ違っていく様や、二人の絆の深さをオラフが物語っていました。キラキラとした子供のまなざしの先に育まれる感性を想像しながら、親としての喜びを感じると同時に、大人が思っている以上に子供は感受性が豊かで、狂言回しとしてのオラフの役割を本能的に感じ取っていると思いました。子育てでは、大人の方が気づかされることが多いと言われますが、本当にその通りです。アナ雪の原作は、アンデルセンの童話『雪の女王』。多くのディズニー作品には小説や童話といった原作があります。「白雪姫」、「眠れる森の美女」、「ピノキオ」・・・など、誰もがディズニー映画として知っている作品はディズニーが子供向けにリメイクしているわけで、ときに原作で語られている物語は残酷なものもあったりするのは周知のとおり。夏の映画も話題作が目白押しですが、『ターザン』や『シン・ゴジラ』など原作や元ネタを改めて見返してみるのも映画の楽しみ方のひとつですね。
さて、僕が主宰するショートショート フィルムフェスティバル & アジアでは、「ブックショートアワード」という“ショートフィルムとつながる文学賞”を開催しています。大賞に輝いた作品は、ショートフィルム化されるというプロジェクトです。
公募テーマは、「おとぎ話や昔話、民話、小説などをもとに創作したショートストーリー」。つまり、二次創作です。テーマを二次創作に絞った理由はいくつかありますが、そもそも日本の文学史上において、二次創作というのは非常にメジャーな手法なんですね。たとえば、芥川龍之介は、「桃太郎」や「サルカニ合戦」を二次創作していますし、太宰治は「浦島太郎」「かちかち山」「舌切り雀」などをもとに「御伽草子」を書いています。
最近でも、たとえば昨年没後50年を迎えた谷崎潤一郎作品の二次創作を、山田詠美さんや三浦しをんさんが上梓し、話題を呼びました。ほかにも、山田洋次監督によって映画化された「小さいおうち」で知られる中島京子さんのデビュー作は、田山花袋の「蒲団」の現代版「FUTON」、町田康さんの現時点での最新刊は「義経記」の二次創作「ギケイキ」、森見登美彦さんの「新釈 走れメロス 他四篇」……といった具合に、現代作家による二次創作作品も枚挙に暇がありません。世界的な評価も高い作家 中村文則さんが初めて書いた小説は、小学校の授業で書いた「浦島次郎」という絵本だったそうですよ。
ブックショートが始まったのは2014年度。2,000作品以上の応募があったなかで頂点に輝いたのは、芥川龍之介の「鼻」を、現代の女子高生に置き換えた「HANA」(結城紫雄 著)でした。この作品を原作に今年、ショートフィルム「HANA」が製作されました。