【原田夏樹が選ぶ大滝以降のシティポップ的ディスク】ボーカル田中拡邦を中心とするスリーピースバンド、ママレイド ラグの1stアルバム『MAMALAID RAG』(2002年)。「特に初期(2000年代前半)の楽曲は、『ロング・バケイション』のような豪華絢爛さはないシンプルなサウンドなんですが、ボーカルの存在感が大滝さんの雰囲気を放っています」
大滝の楽曲もその流れで耳にするようになり、大きな影響を受けた。
「大滝さんは洋楽に精通していながら、歌謡史にも詳しい。だから洗練さを保ちつつ、どこか日本人特有の匂いを残した濃密なポップスを生み出せるのだと思います」
また、大滝を含め、1970〜80年代に登場したシティポップには、大きな特徴があるという。
「あの当時は、おそらくシンセサイザーが浸透し、その存在感が楽曲制作に大きな影響を与えたんだと思います。その結果、楽曲にいろんな要素を聴き取ることができる。しかも、詰め込みすぎ感がなく、豪華に聴こえてしまうところが素晴らしいですね」
そのリッチな音楽は、聴き手にある効果をもたらすのだとか。
「ここではないどこかへ連れて行ってくれるというか。当時のことをリアルに経験したわけではないのですが、その時代に都会で暮らしていた人たちの暮らしを想像させ、また、彼らへの憧れを与えてくれます」
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異空間に誘う音楽。それは90年代以降の日本のポップスにも好影響を与えていて、ジャンルを問わず多くのミュージシャンに受け継がれている、と原田。また2010年頃からは、「ヴェイパー・ウェーブ」という、1970〜80年代のディスコやソウルをサンプリングする音楽ムーブメントが世界的に注目されるように。そこから派生して、同じく70〜80年代に制作された日本のシティポップの数々が、YouTubeなどを通じて、言語の壁を越えて評価されるようになったと話す。
「現代のようにテクノロジーが発達していない状況において、人間の鳴らす楽器だけで、いろんな要素を詰め込みながら完成度の高い音楽を生み出す技術力。そこが、当時のシティポップが言葉の壁を越えて支持されている理由のひとつなのかなと思います」
原田自身も、その完成度の高いシティポップの感覚を受け継ぎ、電子音などをミックスして現代的に再構築。最近では、インドネシアの人気ユーチューバーであるレイニッチの楽曲制作に関わるなど、シティポップの魅力を幅広く、かつ深く紹介している。
「僕が新たな時代をつくるかどうかは別にして、ある程度の表現力がついたら、いつか大滝さんが追求していたような、味つけの濃い音楽をつくってみたいですね」
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