ソロ作限定でセレクト! 綿矢りさ、オカモトコウキ、光石 研らが選ぶ、大...

ソロ作限定でセレクト! 綿矢りさ、オカモトコウキ、光石 研らが選ぶ、大滝楽曲のMY BEST 3(前編)

文:力石恒元

時代と世代を超えて愛される大滝サウンド。さまざまな分野で活躍するクリエイター10名が最愛の3曲を厳選し、惹かれる理由と想い出を語ってくれた。


ナイーブさを感じる、音と詞の世界に浸りたい。

綿矢りさ●文筆家。1984年、京都府生まれ。2001年『インストール』で文藝賞を受賞、作家デビュー。早稲田大学在学中の03年『蹴りたい背中』で、第25回野間文芸新人賞候補、翌年、第130回芥川賞を受賞した。他の著書に『かわいそうだね?』『ひらいて』『夢を与える』『勝手にふるえてろ』『憤死』『大地のゲーム』『私をくいとめて』などがある。

ソロとしてのファースト・アルバム『大滝詠一』を通して、彼の音楽と出合った綿矢りさ。ある時、レンタルショップで借りたアルバムに収録されていた「それはぼくぢゃないよ」を聴いて、すごく好きになったという。

「大滝さんの曲に漂う傷つきやすそうなナイーブさが入り交じった雰囲気が心地よくて惹かれます。仕事中にBGMとして聴くのですが、気づいたら仕事を放り出して、歌詞カードを見ながら聴いて、曲の世界に浸っています」

耳から取り込まれた音の波は、やがて意識を優しく包み込みながら、頭の中に広がる別の世界へと誘う。だから、大滝詠一が紡ぐ音楽を聴きたくなる時が、誰にだってあるのだ。

「疲れている時、あと、現実とは違う場所へ行きたい時に聴くと、自然とリラックスすることができるんです」

2017年に発表された綿矢の著書『私をくいとめて』には大滝の曲が印象的に登場する。本作の主人公は、おひとりさまの暮らしに慣れた32歳の黒田みつ子。脳内にいる相談役「A」と会話すること以外は、いたって普通。イタリアに向かう空飛ぶ鉄の塊という、非日常空間に身を置く自分を落ち着かせるため、「A」に促されて『ロング・バケイション』を聴く。「我が心のピンボール」に始まり「カナリア諸島にて」「君は天然色」とシャッフル再生を想像させる曲順は、動揺するみつ子の心情を表しているようで面白い。

「このアルバムを聴いていると、行ったこともない理想の楽園について強烈に書きたくなります」

綿矢の言葉を聞けば、物語の中に歌詞を綴った理由も納得。そして、そんな美しい曲が、彼女のベストソングの上位を占める。1位は、作中で「溶けた熱いバターで、うすくひきのばした夏が、コルクの蓋のガラス瓶に永遠に閉じ込めてあるような音楽」と表現した「カナリア諸島にて」である。

「南国の楽園の時が止まったようなリラックスタイムの雰囲気を味わうことができます。この歌の世界へ呼ばれる、体感型の曲」。続く「君は天然色」はまさに「搾りたての初夏、青春そのものの鮮やかな音色」を奏でる名曲。『私をくいとめて』が昨年映画化された際、劇中歌として新たに5.1chサラウンドにミックスされた。約40分のアルバムは「もっと聴きたいと思っているうちにすぐ終わってしまう。何度聴いても指の間からキラキラすり抜けていって、耳が追いかけ続けるんです」

まぶしいほどに爽やかな2曲に対して、愛する人とのこれからを思い描く大人の1曲を最後に挙げた。「『幸せな結末』は、ゆったりと優しい、熟成した色気を感じます」


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