名優ジャン=ピエール・レオーが子どもたちと人生の輝きを伝える注目作、『...

名優ジャン=ピエール・レオーが子どもたちと人生の輝きを伝える注目作、『ライオンは今夜死ぬ』

文:細谷美香

ジャンが劇中で歌う『ライオンは寝ている』からインスピレーションを得て生まれた作品。 ©2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

1959年の『大人は判ってくれない』を皮切りに、トリュフォーのもとでアントワーヌ・ドワネルを演じたジャン=ピエール・レオー。フランスの名優が、ヨーロッパでも多くのファンをもつ諏訪敦彦監督とともに作った映画『ライオンは今夜死ぬ』が公開されます。ジャンが演じるのは、同名で同じく俳優のジャン。コート・ダジュールで新作の映画を撮影中の彼は、「死を演じられない」ことに思いをめぐらせています。相手役のコンディションの都合で撮影が延期になって、ジャンが向かったのはかつて愛していたジュリエットが住んでいた屋敷でした。若々しく美しい姿のままでほほえみとともに彼の前に現われたジュリエットと、当たり前のように対話するジャン。そして屋敷に忍び込み映画を撮影していた子どもたちに出演を依頼された彼は、にぎやかな時間を過ごすことになります。

諏訪監督の『不完全なふたり』に惚れ込んだというジャン=ピエール・レオーと共演したのは、監督がワークショップで出合った子どもたち。映画の中でも元気いっぱいのいたずらっ子たちの瞳はいつも好奇心で輝いていて、「老いぼれ!」なんて呼ぶ彼らに、ジャンも「僕はジイさんじゃない、ジャンという名前だよ」と穏やかに応戦します。年齢の壁はあってもどこか対等で、お互いを見上げることも見下げることもしない。そんな関係性が、気持ちのいい風を運んでくるのです。

子どもたちがはしゃぐ南仏の陽光はまぶしく、ジャンとジュリエットがおしゃべりする古い屋敷や星が瞬く夜の道との対比はまるで、生と死そのものを描き出しているかのようです。けれども決してそのコントラストが強いわけではなく、この映画の世界のなかでは彼岸と此岸、現実と幻の境界線が、ゆるやかに心地よく溶け合っています。

ジャンは、次世代を生きる子どもたちに語りかけます。「人生で一番楽しいのは70歳から80歳。なぜならば何かガタガタになって、自分が何者でもないと知り、出合いを待つ」ことができるからだ、と。これは、子どもたちが撮った作品を観て「映画を楽しんでいる!」と歓喜するジャンを通して描かれた、映画という表現へのラブレターであり、「死と手を携えて生きる」人生の光と影を祝福する映画でもあるのだと思います。

南仏のラ・シオタ周辺やグラースで撮影された美しい映像も見どころのひとつ。 ©2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

ジャンがかつて愛したジュリエットを演じるのは、『ジュリーと恋と靴工場』のポーリーヌ・エチエンヌ。 ©2017-FILM-IN-EVOLUTION-LES PRODUCTIONS BAL THAZAR-BITTERS END

監督:諏訪敦彦
出演:ジャン=ピエール・レオー、ポーリーヌ・エチエンヌほか
2017年 フランス・日本合作映画 1時間43分
配給:ビターズ・エンド
1月20日より恵比寿ガーデンシネマほかにて公開。
http://www.bitters.co.jp/lion/

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