定期的に海外のひとつの出版社に焦点を当て、その出版社の本だけを取り扱うショップ「POST」のスタッフが、いま気になる一冊をピックアップ。今回、POSTの錦多希子さんが紹介してくれるのは、晩年のセザンヌが仕事場としたアトリエの写真集です。と言っても、主役となるのは絵画のモチーフとなったコレクションの数々。「平面性」を極めたセザンヌのアプローチを汲んだ、写真家の視点に注目です。
Vol.26 セザンヌへのオマージュに満ちた、巨匠のアトリエの写真集。
現代を生きる私たちにとっても比較的馴染みの深い、19世紀以降の近代絵画。モネ、マネ、ルノアール、ドガ……。激動の時代を生き抜いた画家のなかでも、今回は「近代絵画の父」と謳われたポール・セザンヌの生涯に目を向けてみます。
画家を志してパリに出たセザンヌは、当時のパリ芸術界で唯一の発表の場であったサロンに繰り返し応募するものの落選を重ね、風当たりの厳しい時代が続きました。その状況下で、同じように日の目を浴びることのなかった印象派画家らと出会い、明るい色彩を獲得したと言われています。一時は結託してグループ展を開催したこともありましたが、光を見た通りに描くことを目指した彼らとは、次第に袂を分かつようになりました。二次元的表現である絵画の本質ともいえる「平面性」を念頭に置き、多視点的描画を導入すること。「自然を円柱、球、円錐として扱う」という、構造に対する幾何学的な捉え方。こうした画期的なスタンスで、セザンヌは既存の絵画のスタイルを刷新していきます。後のキュビスムに影響を与えたというのも頷ける話で、なんでもあのピカソに「彼は我々すべてにとって父である」と言わせしめたのだとか。彼の功績は、皮肉にもこの世を去った後に広く認められるようになったのです。