定期的に海外のひとつの出版社に焦点を当て、その出版社の本だけを取り扱うショップ「POST」のスタッフが、いま気になる一冊をピックアップ。今回、POSTの錦多希子さんが紹介する本は、「最も美しい本」を選ぶスイスのブックアワードの年鑑。「なぜこの本は美しいのか」という理由を、本を分解して見せていくアプローチが面白いです。
Vol.25 ディテールまで本を分解する、スイスのブックアワードの年鑑。
電子書籍の登場によって、物質的な紙の本は大きな転換期を迎えました。その存在が淘汰されてしまうのでは……と危ぶまれた当初の予想に反し、実はその後の刊行タイトル数は増え続けています。手順やコストといった制作手段の多様化に伴い、ニーズに応じた選択の可能性が広がったこと。アーティストが自身の表現の場として本という形態を選ぶようになったこと。さまざまな要因はありますが、つくり手にとっても読者にとっても、より出版という取り組みが身近になったように思えます。
多種多様なアートブックとの度重なるめぐり逢いのなかで、ひと際存在感を放つ本にすっかり胸を鷲掴みにされることがあります。それは必ずしも華美だったり奇抜なデザインということではなく、かといって著名なクリエイターの関与したタイトルに限ったことでもありません。果たしてなにを受けて「いい!」と感じるものなのでしょうか? ある人は装丁に惹かれるかもしれませんし、またある人は純粋に収録された作品やコンテンツが気に入るということもあるでしょう。ひょっとしたら、鮮やかな色彩や紙質に魅せられることだってあり得ます。人に個性があるように、同じ本に対しても感じ方は人それぞれです。
ところで、「神は細部に宿る」ということばを聞いたことはありますか? 20世紀を代表するモダニズム建築家のミース・ファン・デル・ローエが好んで使ったとも言われている言葉です。美や機能の追求とは、すなわちディテール(細部)の追求。素材や意匠といったごく細やかな部分にも、決して妥協することなく真摯に選び取る。このきめ細やかな積み重ねにより、全体として完成度の高いものが生まれます。この精神性を、アートブックのあり方にも見いだすことができそうです。