Vol.20 世界が一義的でないことを教えてくれる「タ...
写真・文:錦多希子

定期的に海外のひとつの出版社に焦点を当て、その出版社の本だけを取り扱うショップ「POST」のスタッフが、いま気になる一冊をピックアップ。今回、錦多希子さんが紹介してくれるのは、なんと世界中の「タイヤ」だけを集めた写真集。しかし、この写真集が伝えたいのは、単純な「タイヤのある風景の魅力」だけではなさそうです。

Vol.20 世界が一義的でないことを教えてくれる「タイヤ」の写真集。

TYRE CHOICE / Gerry Johansson / LIBRARYMAN
タイヤ・チョイス / ゲリー・ヨハンソン / ライブラリーマン

「ある特定の出版社にフォーカスを当て、期間中はその出版社の刊行物だけが並ぶ。扱う出版社が変わることで、展開される本もすべて入れ替わる」。これが「POST」のプロジェクトです。誰もが聞き馴染みのあるだろうシンプルな名称の由来は、「郵便物が届く場所」と「定期的に新しい本(印刷物)が届く取り組み」との親和性からとったPOST。また、たとえば「ポスト・モダン」のように、次の潮流を予感させる接頭辞としてのPOST。もしくは、「SPOT」=出版社にスポットを当てる、のアナグラムでPOST。このように、さまざまな意味が含まれています。
こうした思いの込められた店で働いているからでしょうか。シンプルでありながら多義的な言葉、要するにマルチ・ミーニング(Multi meaning)の言葉に魅せられることが増えました。思慮深さと普遍性を兼ね備えたひとつの言葉を通じて、深層に込められた機知に触れた時、感覚がひらかれていくように感じます。ビジュアルがメインとなるアートブックのなかにも、実は複数の意味合いが込められたタイトルがあります。今回はこうしたマルチ・ミーニングの伏線を敷くことによって、表現の広がりを体感できるような一冊をご紹介します。

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