台湾のデジタル担当大臣オードリー・タンが提唱する、すべての人をコロナから守る「インクルーシブ」という考え方
新型コロナウイルスの蔓延において「世界で最も防疫に成功した」と称賛される台湾。日本では、サージカルマスク販売店の在庫がリアルタイムでわかるアプリ「マスクマップ」を開発したデジタル担当大臣のオードリー・タンに注目が集まった。
我々の目にタンがまぶしく映るのは、「インクルーシブ」という考え方をもっているからだ。「誰ひとり取り残さない」「声の小さい人の意見に注意して耳を傾ける」──その姿勢は、ギフテッド(天賦の資質を備えること)やトランスジェンダー、スーパーハッカーなど、多様なバックグラウンドをもつタンならではのものだ。
世界中から注目された台湾のマスクマップ。新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた台湾で、早晩マスク不足に陥るのは不可避だと政府が判断し、マスクはすべて政府が買い上げ、実名制(本人確認)で販売。マスクの輸出を禁止することを発表したのが2020年2月3日。そこから3日後に完成したマスクマップは、全台湾に6000カ所以上もあるマスク販売拠点の在庫が、グーグルマップ上で30秒ごとに自動更新されるというものだった。これにより、いつ、どこで、マスクが入手可能かという最新情報が示されたことが市民の安心感へとつながり、マスクを公平に行きわたらせようとする政府の姿勢も可視化され、台湾はパニックを免れた。
ここには通常であれば考えられない取り組みがなされていた。それが、タンが用いた革新的な解決法により社会問題を解決する「ソーシャル・イノベーション」だ。政府がマスクマップのようなアプリを開発することになった場合、入札やコンペを実施した上で、ひとつの開発会社に発注することが多いだろう。だが、タンは違った。マスクの在庫データをまとめたこのマスクマップをオープンソース化し、1000人ものシビックハッカー(民間のエンジニア)らと共同で完成させたのだ。
政府がつくったこのマスクマップをもとに、シビックハッカーらはさらに、グーグルマップを使いこなせないお年寄りなどのために「OK google」や「Siri」などの音声アシスタントサービスや、「LINE BOT」といったアカウントサービスで130以上のアプリに対応させた。その利用者は1000万人を超え、台湾の全人口の約40%に相当する。