『YOU ARE SEXY』
奇妙礼太郎
奇妙礼太郎は語りかけ、“なんでもない”あなたを肯定する。
力石恒元 編集者・ライター数多くのライブへの出演やCMのテーマソングへの参加など、我々の生活圏内にそっと寄り添っている奇妙礼太郎。先ごろ、意外にもソロでメジャー初となるフルアルバムを発表した。表題曲にもあるのだが、日本人としてあまり慣れないセリフ「君はセクシー」を冠した本作は、素直に生きている人を肯定する人間讃歌、もとい〝ありふれた男讃歌〞を掲げている。奇妙礼太郎は「奇妙礼太郎」としてさらに何を体現しているのか―?
というのも、奇妙礼太郎という男はこれまで〝世帯主〞として、その才能と歌声を世に発信してきた。「奇妙礼太郎トラベルスイング楽団」は、ビッグバンドならではのポップな歌謡サウンドを披露し、惜しくも2016年に解散を迎えた。「天才バンド」は作詞作曲を手がけるSundayカミデと楽団仲間だったドラマー、テシマコージとのユニットで、ソウル溢れるロックバンドとして注目を集めている。
本作は1年前に発表する予定だったがなかなかうまくいかず、スタジオでセッションを重ね、できあがった。結果、オリジナル曲は自身のソロライブで見せるフリーセッションのようにアドリブと即興で構成され、全体に彩りを添えている。ありのままの生っぽい質感でリスナーへ語りかけ、コミュニケーションを試みている。「Woman」はピアノを主軸としたミドルテンポの優しいポップスに、気弱な男のひとり言のような歌詞が乗る。「君はセクシー」はストイックでドライなギターサウンドに、実直な男の眼差しがちらつく。そして最後の「わたしの歌」では、口数の増えた男が「わたしはわたしのことを割と気に入っている」と独白。それらはロマンティシズムとナルシシズムを抱えた自分の目線と重なる感じがして、ひとたび聴けば、なんでもない自分が主役になれる気がしてくる。
『YOU ARE SEXY』
奇妙礼太郎
WPCL‐12775
ワーナーミュージック・ジャパン
¥3,024(税込)