『ヨシダナギの拾われる力』
ヨシダナギ
人気フォトグラファーが著した、 ツッコまれる側の人生哲学。
内藤 順 HONZ編集長/広告会社勤務俯瞰的に世の中を眺め、面白そうなものとそうでないものを選別し、周囲の人間にシェアする。一億総ツッコミ時代と言われるほど、情報の流れ方が大きく様変わりするなかで、ひとつの問題が生じ始めている。それは、ボケ役――つまりツッコまれる側の人材が圧倒的に不足しているということだ。
著者のヨシダナギは、いま最も求められるこのスキルを「拾われる力」と表現した。彼女自身、この能力をもってアフリカの少数民族と仲良くなり、撮った写真を引っ提げてテレビに出演し、一躍有名人になっている。
これだけ聞くと、とことんアクティブな行動派の女性がイメージされるかもしれないが、決してそんなことはないから、世の中わからない。本書は、いまや人気フォトグラファーにのし上がったヨシダナギの「ぬるっとやり抜く」人生哲学をまとめた、大胆不敵なビジネス書である。
彼女の人生のツッコミどころは、ロングテールの説明などで使われる「べき乗則」のグラフに似ている。上位2割の顧客が8割の売上を生み出すと言われるが、この2割ほどの領域で彼女は常にやりすぎているのだ。「1から10のうち、2〜9をスッ飛ばしている。常に1の次はいきなり10」と彼女は評されるそうだ。だからアフリカの少数民族の前で裸になれるし、イモムシやカブトムシも食べられる。
一方、あまり知られていない残り8割の領域もツッコミどころが満載だ。基本的には無気力、他人には無関心、実はカメラがあまり好きではない。やりたくないことをきちんと定めているのみならず、その数も意外と多い。
要は、本能の赴くままに進めば自ずとアンバランスなポートフォリオができる。それを指摘された時、直そうと思うのか、拾われたと思うのか。その差が実に大きいということを、彼女の生き方は教えてくれる。
『ヨシダナギの拾われる力』
ヨシダナギ 著
CCCメディアハウス
¥1,620(税込)